2019 Fiscal Year Research-status Report
気候変動による水資源リスクへの適応:利根川流域の過去・将来120年の解析
Project/Area Number |
19K06304
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
吉田 武郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 主任研究員 (80414449)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水資源 / 気候変動 / 人間活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
利根川流域の全域モデルを構築し,新たに近似ベイズ計算という方法を用いてダム流域でのキャリブレーションを行った.加えて,水利施設の開発・水利調整に関する歴史的な経緯に関する情報も整理し,モデルの諸元のみならず,水利施設の運用に関する制限条件を明らかにした.さらに,長期間の大量アンサンブル気候予測データベースから,過去60年(1951~2010年)の温暖化を再現した「全強制実験」および非温暖化時の「自然変動実験」を整備した.初年度に整備したモデルおよびデータを用い,イベント数を仮想的に増加させるアンサンブル実験により,気候変動による渇水規模の長期変動と渇水被害の発生数を把握し,渇水のような低頻度の極端現象の気候変動の長期的トレンドを明らかにする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
利根川流域における過去60年間の水利用(工業・農業・上水),水利施設の整備状況(貯水池容量,取水量),社会経済状況(土地利用,人口,GDP)のデータを収集し,収集した社会経済データをいくつかの年代ごとに分け,水文モデルの入力データとした. 併行して,長期間の大量のアンサンブルをもつ気候予測データベース(d4PDF)から,過去60年(1951〜2010年)の温暖化を再現した「全強制実験」および非温暖化時の「自然変動実験」を抽出した.これまでに,全強制実験のバイアス補正を実施し,自然変動実験についても今後継続して行う予定である. さらに,利根川の水資源開発・水利調整において重要な位置を占める水利施設として,北千葉導水路に着目し,下流に位置する土地改良区(大利根・干潟)が水利権の保証を求めて起こした論争について整理した.北千葉導水路は,昭和47(1972)年河川法改正により可能となった流況調整河川(二つ以上の河川を連絡して流水の状況を改善するための河川)の一つで,利根川と江戸川を結ぶ.その結果,北千葉導水路モデルの構築に必要な諸元と水利施設の運用に関する制限条件を明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度構築したモデルを用い,将来の気象データを用いた実験を行う.過去(1951~2010年)と将来(2051~2110年)の気象データを入力値として与え,気候変動の長期的トレンドを明らかにする.渇水のような低頻度の極端現象は,単一の気候変動予測実験によって表現される確率は低い(60年でも約2回).そのため,渇水の生起確率の長期変動を得るには,初期値や境界条件を少しずつ変化させ,イベント数を仮想的に増加させるアンサンブル実験により,気候変動による渇水規模の長期変動と渇水被害の発生数をより把握する.得られた渇水規模の長期変動により,気候変動の時間スケールの把握,適応計画の実行に許容される時間の把握に用いる.
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Causes of Carryover |
物品購入費が想定したよりわずかに安い金額で納入されたため. 次年度は,消耗品費(データ保存メディア)の一部として使用する予定である.
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