2021 Fiscal Year Annual Research Report
気候変動による水資源リスクへの適応:利根川流域の過去・将来120年の解析
Project/Area Number |
19K06304
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
吉田 武郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 上級研究員 (80414449)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水資源 / 気候変動 / 農業用水 / 水文モデル / キャリブレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
流域内の水利施設の操作,農業用水の取水・還元を表現する分布型水循環モデル(吉田ら,2012)を利根川水系に適用し,人間活動の影響を受ける流量観測地点における河川流況,特に低水流況を精度良く解析できることを確認した.渇水の指標として,モデルで算出した河川流量が利水基準点の正常流量を下回る日数(渇水期間)および正常流量を下回った量の累積値(累積渇水量)を用い,気候変動の影響を評価した. モデル精度の向上に向け,新たに開発した以下の手法によりダム流域でのパラメータ同定を行った.具体的には,ランダムに生成されたパラメータを用いた5,000回のシミュレーション結果から,目的関数NSEの上位5%のパラメタを抽出し,各パラメータの分布の中央値を同定値として選択した.これにより,未観測流域での流出推定精度が向上するとともに,同定されたパラメータは土壌形成や蒸発散効率に関する物理的解釈と整合性を示し,パラメータの頑健性が確認できた. 次に,150年連続ランの結果を5期間に分けてそれぞれの期間ごとにバイアス補正し,分布型水循環モデルを用いて各月初日の積雪水当量および灌漑期の渇水指標を評価した.積雪水当量は,150年間で一貫して減少傾向にあった.特に,21世紀半ば以降は減少傾向が明確になり,5月1日にはほとんど積雪が見られない状況になった.さらに,渇水指標を比較すると,規模の小さい渇水が減少し,大規模・長期間にわたる渇水が増加する傾向が示された.また,特徴的な渇水パターンを抽出すると,これまで夏季に生じていた渇水時期が早期化し,5月下旬から長期間にわたる渇水の生じうることが示された. 今後,150年シームレス計算のアンサンブル数の増加や,農業用向けの高解像度力学的なダウンスケールシナリオを用い,より詳細な地域的影響を評価するとともに,それらを農業の適応策と関係づけて評価する研究の発展が期待される.
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