2020 Fiscal Year Research-status Report
塩ストレス応答・耐性機構を活性化するダイズ機能未知遺伝子の分子生物学的研究
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19K06330
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
小島 俊雄 茨城大学, 農学部, 准教授 (70311587)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダイズ / 塩ストレス / 耐塩性 / 機能未知遺伝子 / アルマジロリピート / ユビキチン-プロテアソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ダイズの機能未知遺伝子GmTDF-5が作用する塩ストレス応答機構を特定し、転写レベルだけでなく、ユビキチン-プロテアソームによる翻訳後分解制御を受けるGmTDF-5の耐塩性活性化プロセスを解明することにある。 2020年度の研究成果として、「GmTDF-5が作用する耐塩性機構の局在組織・器官の特定」では、GmTDF-5プロモーターGUS発現系を導入した形質転換シロイヌナズナにおける塩ストレス処理後のGUS発現部位を中心に組織切片を作成したところ、維管束の木部組織で強く発現していることを突き止めた。この結果は、GmTDF-5が作用する塩ストレス応答・耐性機構が木部組織に存在することを示唆している。また、「GmTDF-5が活性化する遺伝子群のリスト化と耐塩性形質の特定」では、GmTDF-5を過剰発現する形質転換シロイヌナズナに対してRNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現解析を実施し、同遺伝子の過剰発現により転写量を大きく変化させるシロイヌナズナ遺伝子を複数特定した。この遺伝子群がコードする個々のタンパク質機能を調べたところ、GmTDF-5が制御すると考えられる形質候補を見出すことができた。現在、候補形質に関わる遺伝子群に対するGmTDF-5の制御を特徴付けるため、ユビキチン化を受けない改変型GmTDF-5を発現する系統も含めて解析を進めている。 今後は、維管束・木部組織を中心に、網羅的遺伝子発現解析によって絞り込まれた候補形質の変化を詳細に特徴付けし、さらにはGmTDF-5の構造特性であるアルマジロリピートやロイシンジッパーを介して結合するタンパク質の同定を進め、植物の塩ストレス応答・耐性機構におけるGmTDF-5の分子機能を解明したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) GmTDF-5が作用する耐塩性機構の局在組織・器官の特定:GmTDF-5プロモーターGUS発現系を導入した形質転換シロイヌナズナにおいて強いGUS発現が見られた葉柄の組織切片を作成したところ、その発現が維管束の木部組織に集中していることを突き止めた。この結果は、同組織にGmTDF-5が関わる植物の耐塩性機構が存在することを示唆している。また、同遺伝子のGUS発現は、塩ストレス処理後の地上部器官でしか観察されなかったが、オーキシンの添加により根での発現が初めて観察された。これはGmTDF-5が関わる形質が必ずしも塩ストレス処理した地上部器官に限定されないことを示唆しており、新たな視点が生まれた。以上の成果は「日本農芸化学会2021年度大会(仙台)」で報告している。 (2) GmTDF-5が活性化する遺伝子群のリスト化と耐塩性形質の特定:RNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現解析を実施したところ、GmTDF-5の過剰発現により転写が変化する遺伝子群が複数見出された。特に転写が抑制された遺伝子群には特定の形態形質に関わるものが含まれており、GmTDF-5が制御する耐塩性形質である可能性が示唆された。 (3) GmTDF-5と結合するタンパク質の同定とGmTDF-5応答遺伝子群の活性化における作用機序の解明:GmTDF-5を発現する植物を用いて共免疫沈降法を実施したが、候補となる結合タンパク質を得ることはできなかった。現在、酵母ツーハイブリッドシステムを用いたスクリーニング系を再構築しており、塩ストレス処理後、ダイズで最も強いGmTDF-5の誘導が見られた成熟葉からの同定を進めている。 このように機能未知遺伝子GmTDF-5が関与する耐塩性形質及びその組織分布が絞り込まれつつある。以上より本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度(最終年度)は、次の2項目を重点的に解析する。 (1) GmTDF-5が活性化する遺伝子群のリスト化と耐塩性形質の特定:GmTDF-5、もしくはユビキチン化されない改変型GmTDF-5を過剰発現する形質転換シロイヌナズナを利用し、候補形質の変化とそれを制御する遺伝子群への影響等を定量化し、標的形質に対するGmTDF-5の制御を明確にする。併せて同タンパク質による耐塩性活性化プロセスにおけるユビキチン-プロテアソーム制御の生理的意義を明らかにする。 (2) GmTDF-5と結合するタンパク質の同定:GmTDF-5をbaitとする酵母ツーハイブリッドシステムを実施し、塩ストレス処理したダイズやシロイヌナズナに由来するGmTDF-5結合タンパク質を特定する。 最終的に、これまでの研究成果と上記結果を踏まえ、機能未知遺伝子GmTDF-5が作用する塩ストレス応答機構を特定し、GmTDF-5による耐塩性形質の活性化プロセス及びユビキチン-プロテアソームによる翻訳後分解制御の意義を明らかにしたい。
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Research Products
(1 results)