2019 Fiscal Year Research-status Report
水田における窒素除去機能を規定する環境要因とモデル化
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19K06332
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松井 宏之 宇都宮大学, 農学部, 教授 (30292577)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水田の窒素浄化 / 脱窒 / 硝酸態窒素 / 温度依存性 / モデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,湛水土壌や水田における硝酸態窒素濃度変化を表す微分方程式および水深変化を表す微分方程式を連立し得られる硝酸態窒素濃度の濃度予測式を提案し,その式中の硝酸態窒素除去係数に影響する環境要因を定量的に評価することで,水田における硝酸態窒素除去モデルを提案する。初年度である令和元年度は,(1)新しい濃度予測式の導出,(2)硝酸態窒素除去係数の温度依存性,(3)蒸発の有無が硝酸態窒素除去係数に与える影響,(4)実験に適した土壌への添加有機物,について検討した。 まず,微分方程式を連立させ得られた濃度予測式は,既存式と同一の基礎式に基づきながらも既存式では考慮されていない,湛水土壌における蒸発や浸透に伴う水位変化が硝酸態窒素濃度に影響を与える機構を表現する構造を有している。 次に,恒温器にガラスビーカーに土壌を敷き詰め硝酸態窒素溶液を湛水させた水田模型を静置し,一定温度条件下における硝酸態窒素濃度変化を計測し,硝酸態窒素除去係数の温度依存性を検討した。湛水土壌を対象とした既存研究では,温度の上昇とともに硝酸態窒素除去係数も増加することが示されていたことに対し,硝酸態窒素除去係数が30度付近でピークを示し,40度では大きく減少することを示した。この温度依存性は供試土壌に含まれる脱窒菌の温度依存性を表していると考えられ,湛水土壌に生存する脱窒菌の温度依存性について検討の余地があることが示された。 次に,蒸発が硝酸態窒素除去係数に与える影響については,同一温度条件による蒸発の大小により算出される硝酸態窒素除去係数が異なっていることから,蒸発の大小が硝酸態窒素除去係数に影響を与えている可能性が高いことが示唆された。 最後に,土壌に添加する有機物については,コハク酸を候補として実験を行ったものの,過大な硝酸態窒素除去係数を示し,水田を想定した実験においては適さないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である令和元年度は,(1)新しい濃度予測式の導出,(2)硝酸態窒素除去係数の温度依存性,(3)蒸発の有無が硝酸態窒素除去係数に与える影響,(4)実験に適した土壌への添加有機物,について検討した。 まず,二つの微分方程式を連立させ得られた濃度予測式は,湛水土壌における蒸発や浸透に伴う水位変化が硝酸態窒素濃度に影響を与える機構を表現する構造を有しており,汎用性が向上している。このことから,新たな濃度予測式の構造については確立されたものと考えている。 次に,硝酸態窒素除去係数の温度依存性については,実験に供する土壌に含まれる脱窒菌の温度依存性に依存することが考えられる。そのため,供試土壌が異なれば温度依存性が異なる可能性がある。これまでに,異なる水田土壌を用いて脱窒に最適なC/N比を検討した結果,土壌ごとに最適なC/N比が異なることが分かっている。このことから,温度依存性については更なる検討が求められる。 次に,蒸発が硝酸態窒素除去係数に与える影響については,蒸発の大小が硝酸態窒素除去係数に影響を与えている可能性が高いことが示唆された。蒸発量が小さいときと比較すると蒸発量が大きいときには硝酸態窒素除去係数が大きくなる傾向が認められ,蒸発に伴う対流により硝酸態窒素除去係数が増大する可能性が示唆された。 最後に,土壌に添加する有機物については,コハク酸を候補として実験を行った。サンプル間のバラツキは少ないものの,過大な硝酸態窒素除去係数を示し,水田を想定した実験においては適さないことが分かった。研究全体の進捗のため,添加有機物の検討は不可欠であり,更なる検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の課題として,(1)硝酸態窒素除去係数の温度依存性,(2)蒸発が硝酸態窒素除去係数に与えるメカニズムの検討,(3)実験に適した土壌への添加有機物,に関する検討がある。 まず,(1)硝酸態窒素除去係数の温度依存性については,実験手法自体は確立したものがあるため,より多くの水田土壌を対象とすることにより,蓄積を図り,その分布特性を明らかにしていきたい。次に,(2)蒸発が硝酸態窒素除去係数に与える影響については,硝酸態窒素除去係数が増大する可能性が示唆されている。そこで,令和元年度に購入した湿度制御装置を用い,一定温度条件で湿度を制御した環境で実験を繰り返すことでデータの蓄積を図り,間接的ではあるものの,対流が湛水土壌での硝酸態窒素除去に与えるという仮説を実証していきたい。次に,(3)添加有機物については,複数の有機物を対象として,最適な添加有機物について検討を進めたい。 令和2年度に新たに取り組み課題として,(1)水平方向の水の流れの影響,(2)水中の微生物・藻類が硝酸態窒素に与える影響を検討していく。 まず,(1)灌漑排水が行われる水田では,田面水は水尻方向に流動するため流れが生じる。この水平方向の流速と硝酸態窒素除去係数が比例関係にあることがこれまでの実験において示唆されている。そこで,作成済みの回流式水槽を用いて,より自然に近い流れの状態を再現し,これまでと同様の実験を実施する。次に,(2)実際の水田においては,炭水土壌中の脱窒菌の影響だけでなく,水中の微生物・藻類が窒素を同化することにより,見かけの窒素除去が生じる。水田を対象とした既存の硝酸態窒素除去モデルでは,水中の微生物・藻類の考慮されていない。そこで,水中の微生物・藻類の影響を定量的に評価するために,営農水田の田面水を利用し,光条件を制御した環境下での実験を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として,当初購入を予定していた恒温恒湿器が予算不足により購入できなかったため,異なる装置を用いて湿度を制御できる実験環境を整えたことが最大の理由として考えられる。 次年度使用額は,水田土壌サンプリングのための旅費に充てることを計画しており,支出できるものと考えている。
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Research Products
(3 results)