2019 Fiscal Year Research-status Report
茶園土壌の有機物分解動態と,炭素貯留への粗大有機物の役割解明
Project/Area Number |
19K06335
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
南雲 俊之 静岡大学, 農学部, 准教授 (70362184)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 茶園土壌 / 炭素貯留 / リターバッグ法 / 土壌動物 / 軽比重画分 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、次の2点に着目して研究を行った。 1つ目は、茶園の炭素含有率・貯留量である。静岡大学農学部附属藤枝フィールドの茶園圃場で土壌炭素貯留量を測定した。地質・気象条件が同じ隣接する雑木林や畑・果樹園などと比較して、茶園は土壌の炭素含有率が高く、炭素貯留量も多かった。この炭素の大部分は土壌粒子画分(<2mm)に含まれ、腐植物質として貯留されていると考えられた。一方、軽画分Light-fractionに相当する微細な有機物片が、当初考えていたより多量に混入していた。この植物片は整枝・せん枝残渣や敷き藁等による植物遺体から腐植物質への移行する過渡的形態と考えられた。 2つ目は、整枝・せん枝による刈り取り残渣(リター)の人為的発生とその分解である。発生量を調査した。春・夏整枝のリターは、その量が少ない上に、回収が整枝後数日遅れただけでダンゴムシ等土壌動物による摂食で減耗した。とくにダンゴムシは、茶の刈り取り直後の緑葉を摂取していた。一方、秋整枝(せん枝)残渣は、その量が多く、リターバッグ法で分解率を調査したところ、敷き藁下でm冬季11~12月の1か月間に約24%減少していた。このとき、網目0.25mm(動物排除)と網目5mmのリターバッグで分解率が同じであったので、土壌動物による分解への寄与はほぼ無いと考えられた。 これらの観察結果から、茶園土壌には整枝・せん枝残渣に加えて稲わら等、多量の有機物が添加される。一方、微生物活動が予想以上に旺盛で、気温の高い時期には土壌動物による粉砕作用も加わるため、有機物分解も速やかに起こる。その結果として、土壌粒子画分に腐植物質とその移行前形態である微細な有機物片が多量集積して、貯留されていると予想した。次年度以降、これらの仮説を検証したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
附属農場の土壌はいずれも腐朽した礫が多く、採取した土壌試料の調製に想定を超える時間を要した。そのため、土壌の成分分析が一部の項目に止まった。また、調査した茶園の土壌粒子画分には軽比重の微細有機物片画分が当初考えていたより多量に含まれていた。この軽比重画分の炭素プールとしての重要性が確認された。春休みを利用して弘前大学・青山正和先生(土壌有機物の専門家、恩師)に教えを請い、その比重分画法を習得しつつ、購入予定の遠心分離機を比重分画にも対応できるスペックのものに変更したうえで分析するつもりである。ただし、現状、コロナ禍もあって青山先生を訪問できておらず、分析のメドが立っていない。これらの土壌分析の遅れのため、進捗状況は「やや遅れている」と自己評価した。 一方、リターバッグ法による整枝・せん枝残渣発生量は1年分のデータが得られた。年次変動もあるため、敷き藁や有機肥料を含めて、次年度も継続してその量を調査し、茶園土壌への有機物投入量の全容把握に努めたい。また、リターバッグ法による分解率測定は、すでに予備実験が終わり、土壌動物による粉砕作用が大きい、冬季でも敷き藁下で保温されるためか分解が進行する、などの事実が明らかになってきた。ただし、タグの消失などトラブルもあったので、これらの問題点を改善しながら、予定通り、本実験に取り組んでいく。とくに土壌動物のリター分解に対する大きな寄与は当初想定していなかった要因で、新たに追加で調べる必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
附属農場では、研究計画に従って、採取した土壌の成分分析、圃場でのリターバッグ法による全分解率の測定を行う。このとき、当初、粗大有機物(>2mm)としての炭素貯留があると予想したが、実際には微細有機物片(<2mm)として多くの炭素が貯留されていた。軽比重画分に相当する微細有機物片の測定の重要性が増した。弘前大学・青山正和先生と連絡を密にとり、コロナ禍の終焉を待って比重分画法の実験指導をいただくと同時に、遠心分離機を購入して比重分画に取り組む。同時に、この微細有機物片を生む原動力は、耕耘や踏みつけといった農作業に伴う物理的な粉砕とともに、土壌動物の摂食・粉砕作用であると想起される。リターバッグ実験では、網目サイズを変えて全分解率に対する土壌動物の寄与も評価する。 これらに加えて、2年目は、土壌からのCO2放出量やパンライシメーターによる溶存炭素溶脱を測定し、有機物投入量の計測結果と合わせて、土壌炭素収支を明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
研究経費に多額の残余が生じたのは、遠心分離機をはじめ設備備品を購入する機を逃したことが大きな理由である。大いに反省すべき点であるが、遠心分離機は比重分画法の実験指導をいただいた後、スペック(バケット・ローターを含む)を見直してから発注する予定であったが、コロナ禍で先延ばしになった。また、リターバッグ法で使うナイロンメッシュシートが想定外に高価で、申請額からの減額分もあり、金額の大きい設備備品費の支出を躊躇したことも原因である。2年目の支出は、遠心分離機と比重分画に必要な消耗品、メッシュシートの順で確保したのち、残額を見ながら購入できる範囲の、必要な設備備品の購入を行う予定である。
|