2019 Fiscal Year Research-status Report
生物指標の遺伝子解析を用いた林業・活性汚泥の循環利活用型土壌改良資材の開発
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19K06346
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Research Institution | Gunma National College of Technology |
Principal Investigator |
大和田 恭子 群馬工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (10203952)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 土壌改良資材 / 線虫 / バイオマス / 活性汚泥 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物寄生性線虫被害による経済的損失は、世界で年間数十兆円と見積もられ、連作障害の抑止がその被害防除の第一選択肢である。しかし、連作障害低減の唯一の方法は農薬散布だが、生態系の破壊・健康被害も甚大である。そこで、地域の特性を生かした未利用バイオマスを用いた農薬に代わる土壌改良資材を開発し、安全かつ持続可能な社会へ貢献することを目指す。 林業の余剰杉バークと下水処理場の余剰活性汚泥を使用し、浚渫で得た底泥・ヌカと混合比を変化させて土壌改良資材を作製した。連作障害抑制のための指標生物として自活性線虫とBacillus subcillusを用い、これまで得られたデータから、Bacillusは10の7乗個のコロニー以上、自活性線虫は1000頭以上が有効であり、それらを満たす土壌改良資材の混合比率を決定した。1~1.5トンの土壌改良資材を圃場に供給できる状態となった。 改良資材の圃場試験は、ヤマトイモ農家の協力を得て現在も継続中である。改良資材投入後、経時的に自活性線虫とBacillusの数の推移を調査した結果、非投入区と比較して、投入区において安定的に自活性線虫とBacillus数は増加した。 改良資材投入区の土壌試料から分離した自活性線虫のうち、捕食性線虫が線虫を捕食している状態が観察され、動画を得た。改良資材中の捕食性線虫が、植物寄生性線虫数を捕食によって減少させる可能性が示された。 連作障害抑制効果をもたらす要因としての自活性線虫種を明らかにするために、個体別DNA抽出法の検討を行った。市販のDNA抽出キットとの比較では、独自に開発した押しつぶし法が精製度は同等であり、簡便さとコスト面で優位であった。PCR法で種の同定を多検体で効率よく実施するためのプライマーを複数設計し、PCR後、試験したDNA試料ほぼ全てにおいてシーケンス解析に供することができるプライマーを設計できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年度に計画した杉バークと活性汚泥を用いた土壌改良資材の各種バイオマス混合比を変化させ、連作障害抑制のための指標生物として設定した土壌1グラム当たり自活性線虫1000頭、Bacillus subtilis 10の7乗コロニー以上を満足する混合比を決定した。Bacillus属細菌が優占化している活性汚泥を得られる下水処理施設が研究対象としている群馬県以外にも明らかになり、本改良資材を各地域に広めることができる可能性が開けた。土壌改良資材は1~3トンのスケールで作製を計画した。現在、圃場への投入にあたり、経時的に自活性線虫とBacillus subtilisを計測するため、1~1.5トンの作製にとどまっている。 生物指標の自活性線虫から個体別にPCRに適用可能な量と精製度をもつDNAの抽出方法を各種検討した。市販のDNAキット数種と比較検討した結果、独自に開発した押しつぶし法が、簡便さやコスト面で上回り、DNAの回収率と精製度においても市販キットと遜色がないことから、独自開発の押しつぶし法を用いてPCRを実施することに決定した。この押しつぶし法においては、バッファー中のSDS濃度が高くなるとPCR反応が大きく阻害されることから注意を要することがわかった。 令和2年度に予定していた自活性線虫種を同定するPCRプライマーの候補に対して、より有効なプライマーが設計されるかを検討した。現時点では、当初の候補が適当であるという結論を得ている。 平成31年度の改良資材を投入したヤマトイモ圃場の試験は、天候の影響により対照区との比較ができなかった。植え付け後、イモが成長する時期に大雨が続き、試験圃場一帯の地区が被害を受けたことによるものである。平成31年度は農作物への改良資材の影響を比較検討することができなかった。次年度に再度圃場試験を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の独自性の一つは、土壌の有機物の分解等で土づくりに極めて重要だとされていながら、土壌改良資材への活用が皆無であり、DNAレベルでの有用種・叢が明らかにされていない自活性線虫を生物指標として、これまでにない土壌改良資材を開発するものである。土壌改良資材を作製するための各種バイオマスの混合比は決定した。混合材料のうち、何が自活性線虫の供給源になっているのかを明らかにする。材料の杉バーク、底泥等、材料別に線虫の存在様式とDNAによる種を調査する。また、下水処理場からの活性汚泥は、Bacillus subtilisの供給源である。Bacillus属細菌の種類と細菌叢の解析も進める。 本研究によって、土壌から分離した捕食性線虫が他の自活性線虫を実際に捕食している画像(動画)を得ることができた。改良資材中の捕食性線虫が植物寄生性線虫数を捕食によって減少させ、改良資材による抑制効果をもたらす大きな要因の一つとなる可能性が強く示された。自活性線虫種のうち、捕食性線虫の種の同定および、線虫叢における位置付けについても明らかにする。 DNA解析は、プライマー設計を引き続き検討し、広汎かつ線虫特異的なプライマーを更に検討する。効率的な多検体DNA試料の解析方法を改良し、改良資材、改良資材投入後の圃場における線虫種の変化にも焦点を当てる。 開発している土壌改良資材の実際の圃場への投入試験は、実用化できるかを見極めるために非常に重要なものである。昨年度は、ヤマトイモ試験圃場のある地区一帯が大雨の被害を複数回受けたため、開発した土壌改良資材の実地試験結果が得られなかった。今年度は、既に土壌改良資材は決定した混合比で作製し、圃場への投入を済ませた。経時的に圃場と対照区からサンプリングを行い、収穫作物への土壌改良資材への効果を検証する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により年度末に次年度使用額として1,602円が生じた。 次年度使用額として生じた額(1,602円)は、翌年度物品費として請求した助成金額160,000円に加えて、翌年度物品費161,602円を次年度計画に必要な試薬購入に使用する計画である。
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