2020 Fiscal Year Research-status Report
鶏卵由来ペプチドのアミロイド線維形成阻止機構の解明と疾患予防効果の検証
Project/Area Number |
19K06376
|
Research Institution | Kyushu Nutrition Welfare University |
Principal Investigator |
杉元 康志 九州栄養福祉大学, 食物栄養学部, 教授 (10100736)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日下部 宜宏 九州大学, 農学研究院, 教授 (30253595)
阿部 義人 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 教授 (60315091)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 卵ペプチド / アミロイド線維形成抑制効果 / 糖尿病予防効果 / β-アミロイド / リゾチーム / 糖質分解酵素 / ポリオール経路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は高齢化社会および生活習慣によって問題となっているアミロイド病および糖尿病 に対して鶏卵由来ペプチドの予防あるいは症状改善に有効な効果を検証することを目的としている。卵(卵白、卵黄、カラザ、卵殻膜)由来ペプチドのアミロイド線維形成阻止効果はβ-アミロイドに対してはカラザたんぱく質分解ペプチドのC4およびC6(HLPLCにて分画した画分)に顕著な効果が見られ、凝集の抑制と線維化の阻止が観察された。C4およびC6は比較的親水性の高いペプチドで、現在、配列の決定を行っており、カラザたんぱく質の同定を行っている。一方、リゾチームに対しては卵白およびカラザ由来のペプチドに凝集および線維化の抑制効果が観察された。卵白由来ペプチドEW2とEW4、カラザペプチドC4、C6とC7に効果が見られた。リゾチーム由来ペプチドおよびオボアルブミン由来ペプチドにも効果があると考えられた。アミロイド線維形成抑制に効果ある卵由来ペプチドをいくつか見出し、有効利用に期待が持たれた。今後、凝集および線維化の抑制の作用機作について追究していく。卵由来ペプチドの糖尿病関連に関する研究では、α-アミラーゼ、マルターゼとスクラーゼに対する抑制作用、ポリオール経路関連酵素であるアルドース還元酵素(AR)とソルビトール脱水素酵素(SDH)について酵素活性抑制効果を調べた。α-アミラーゼに対しては卵殻膜と卵白ペプチドが、マルターゼとスクラーゼに対しては卵殻膜ペプチドが効果を示した。卵殻膜ペプチドのESM4とESM17に強い活性があり、これらについて同定および大量調製を行っている。ARにおいては卵殻膜ペプチドESM17と25、SDHには卵黄EY7とカラザペプチドC12にその有効性が見られた。また、メイラード反応よく効果についても検証し、卵白、カラザおよび卵殻膜ペプチドに抑制効果が認められた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は概ね順調に進んでおり、卵ペプチドのアミロイド線維形成抑制効果や抗糖尿病効果は顕著であることを明らかに出来ている。しかし、卵ペプチドの同定にはまだ時間がかかっている。HPLCでの分画では活性ある画分にいくつかのペプチドの混在が認められ、確証あるペプチドを単離・精製に時間を費やしている。アミロイド線維形成抑制に効果あるカラザペプチドC4およびC6も複数のペプチドからなり、その分離にHPLCの条件を変えて取り組んでいる。卵白由来ペプチドEW2とEW4も同様であり、機能ペプチドの分離にはもう少し時間がかかる。 卵ペプチドのアミロイド線維形成阻害効果は線維形成には疎水基に富んだコア領域との相互作用によると考えられた。相互作用の解析は今後、構造解析をはじめ種々の解析法を使って行っていく。 抗糖尿病効果の1つしてヒト小腸粘膜細胞膜酵素であるマルターゼおよびスクラーゼのカイコ・バキュロス発現系による作製を試みているが、両酵素は分子量が大きく、膜結合タンパク質であるため活性あるタンパク質の取得は出来ていない。これまでラット小腸由来の両酵素の対する卵ペプチドの阻害効果は認めているが、ヒトの酵素への阻害は必須であることから引き続きカイコ・バキュロス系での両酵素の発現を進めていく。 メイラード反応の抑制効果についても卵ペプチドに観察されたが、解析はこれからである。最終年度にこの問題に取り組んでいく。
|
Strategy for Future Research Activity |
鶏卵由来のペプチドを生活習慣病であるアルツハイマー病をはじめとするアミロイド病や糖尿病の予防効果を検証し、有効性を明らかにする。 アミロイド線維形成阻害効果についてはカラザペプチドにその有効性が見られたので、ペプチドの同定を行い、その作用機作について研究を進めていく。アミロイド線維形成コア領域とペプチドの相互作用をNMRおよび各種分析で行い、ペプチドの構造の重要性を検証し、他のアミロイド線維形成タンパク質にも応用できるかを観察する。また、ペプチドの大量調製法を確立する。 糖分解酵素、ヒトマルターゼおよびスクラーゼの酵素の取得は最も重要であることから、カイコ・バキュロス発現系での発現を目指す。両酵素とも10万を超える膜タンパク質であることから、クローニングとウイルスベクターの導入が鍵となるので、いくつかの改良点を見出し解決に向かっていく。ラット由来の両酵素には卵殻膜ペプチドが強く阻害することからヒトにおいても同様の作用が期待される。ペプチドの単離、同定を進め、その有効性を明らかにしていく。ポリオール経路酵素であるARおよびSDHに対しても卵殻膜、卵黄、カラザ由来ペプチドが阻害効果を示すことから、糖尿病の合併症の原因の1つであるポリオール経路を抑制することが出来る。ARはカイコ・バキュロス系で大量調製が出来ているのでペプチドの作用機作について追究していく。 メイラード反応を抑制することも糖尿病の悪化、合併症を防ぐ重要なファクターとなり、多くの成分で検証されているが、まだ、確立されたものは少ない。卵ペプチドに抑制効果が見られたことからその分離・同定し、有効成分を明らかにすると共に、ヘモグロビンと糖とペプチドの相互作用を種々の解析法で分析し、作用機序について追究していく。
|
Causes of Carryover |
ペプチドが未同定だったためペプチド合成の注文が遅れたこととカイコ・バキュロス発現系でクローニング後の大量調製用の精製カラムの注文が出来なかったことによるもので、次年度にこれを繰り越した。また、学術雑誌への投稿論文が間に合わなかったことによる投稿料などが発生しなかったことから次年度に繰り越した。
|