2020 Fiscal Year Research-status Report
ゾウリムシバイオリソースを活用したレジオネラエフェクターの網羅的機能解析
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19K06383
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
渡邉 健太 山口大学, 共同獣医学部, 助教 (20582208)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | レジオネラ / エフェクター / ゾウリムシ / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
レジオネラはIV型分泌装置を介してエフェクターと呼ばれるタンパク質を分泌することにより、細胞内寄生を可能にしている。結果として、感染後に肺胞マクロファージなどの内部で菌が増殖し、重篤な肺炎や発熱症状が引き起こされる。個々のエフェクターがレジオネラの病原性に直接的に関与することは様々な研究で明らかになってきている一方で、レジオネラにおいて報告されているエフェクターの数は他の病原性細菌と比較して極めて膨大であり、その機能や存在意義の全貌は未だ明らかになっていない。そこで本研究では、レジオネラが環境中においてはアメーバに代表される原生生物と共生関係を構築するという特徴に着目し、その共生機構の確立に関わるエフェクターの探索と、その新規機能の解析を進めている。 本研究において、原生生物宿主としては主にゾウリムシを用いた解析を行っている。ゾウリムシは身近な原生生物の一つであり、レジオネラの自然環境中における宿主になり得ることを既に報告している。ゾウリムシのナショナルバイオリソースプロジェクトから性状の異なる株を複数種類取得することが可能であり、これによりレジオネラとの様々な関係性が確認できるような感染実験系を構築した。この実験系を用いることで、菌側の共生因子の同定や、あるいは共生メカニズムの解析が可能であることは、これまでの我々の研究により実証済みである。 IV型分泌機構や個別のエフェクターを欠損させたレジオネラ株を用いることにより、ゾウリムシとの関係性に影響が生じるものを網羅的に探索し、その新規性の分子レベルでの機能解析を行う。最終的には、原生生物との共生に関与するエフェクターが、哺乳類細胞への感染や細胞内寄生においてはどのように機能しているのかについても比較検討し、ヒトでの病原性の解明や、あるいは感染防御に繋がるような知見を得ることを目的にしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに作出したDotA、 DotO、 DotHなどのIV型分泌装置のコンポーネント因子を欠損株させたレジオネラ株をゾウリムシでの感染実験に供試し、ゾウリムシ細胞内での菌数や局在の変動を解析した。一部のレジオネラ株においてはその細胞内共生能に影響が認められたが、ゾウリムシ宿主に対して細胞毒性を示すような特殊なレジオネラ株においては、その細胞毒性とIV型分泌機構の関係性は認められなかった。マクロファージなどの哺乳類細胞に感染する場合とは異なり、ゾウリムシへの感染においてIV型分泌機構の関与は部分的あるいは限局的であることがこれまでの結果から示唆された。これは、穏やかな共生関係を維持できる原生生物がレジオネラの本来の自然宿主であり、哺乳類細胞への感染はレジオネラにとっては偶発的な現象であるということに起因する差異の可能性が考えられる。 また、環境細菌であるレジオネラはバイオフィルムの形成能が高く、このことが環境中でのストレス耐性や生存に有利に働いているとされる。バイオフィルムの形成や、その内部での増殖時における遺伝子発現にはクオラムセンシングが深く関与することは既に知られている。本研究を進める中で、原生生物の細胞内という特殊な環境中においても、クオラムセンシングがレジオネラの生存性や環境適応に重要な働きを持つことが推察されたため、このクオラムセンシングに関与する因子にも焦点を当てた解析も進めることとした。そこでまず、オートインデューサーの合成酵素であるLqsAの欠損株、ならびにDotAとLqsAの両遺伝子の欠損株を追加で作製した。現在はこれらの株を用い、ゾウリムシ感染時におけるLqsAとIV型分泌機構の関係性、あるいはLqsAの発現や機能に関与する新規エフェクターの探索等を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに実施して来た、トランスポゾンを用いたランダムミューテーション法を応用した手法によるエフェクターの網羅的解析は継続して行う。これに加えて、新たに作出したLqsA欠損株を用いたゾウリムシへの感染実験も行い、ゾウリムシとの共生の可否を中心とした性状の変化を確認する実験を集中的に行う。これにより、クオラムセンシングに連動して機能するエフェクターの絞り込みが可能になると期待できる。また、これまでの予備的な実験の中で、レジオネラ感染ゾウリムシから抽出したmRNAサンプルを用いたRNA-seq解析が有用であることが示唆されている。こうした解析技術も利用することで、宿主側の反応や関連因子を評価することが可能となり、ゾウリムシ内で作用するエフェクターの機能評価も容易になると考える。 さらに、同じくレジオネラの原生生物宿主候補として報告されているテトラヒメナを入手し、これを用いた実験系も新たに利用できる状況になったことから、これまでのゾウリムシを用いた研究において得られた結果が、テトラヒメナとの関係性においても同様に再現されるのか否かを確認し、本研究結果の汎用性や一般性、あるいはその特殊性について検討を行う。ゾウリムシでは存在意義が明かにできなかったエフェクターが、テトラヒメナに対しては重要な役割を持つケースなどが想定される。以上の研究を通し、最終的な目標であるレジオネラ症の制御に繋がるような成果を生み出すことを目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により参加した学会の全てがオンライン開催となり、旅費の使用計画と実際の利用状況が大きく異なった点と、同じくコロナ禍の影響により物流が停滞し、いくつかの消耗品が年度内に納品できなくなったことから購入手続きを取りやめたことにより、結果として次年度使用額が生じた。 2021年度も旅費については不透明な部分が多いことから、基本的には物品費として合わせて使用することを計画している。
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