2019 Fiscal Year Research-status Report
イヌ悪性黒色腫特異的活性化経路を標的とした抗腫瘍治療:ERK5経路の活性化制御
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19K06389
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中山 智宏 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00419649)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉谷 博士 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20050114)
中野 令 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60755619)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 口腔内悪性黒色腫 / イヌ / MAPキナーゼ / ERK / PKC |
Outline of Annual Research Achievements |
犬悪性黒色腫は犬の口腔内悪性腫瘍(メラノーマ)で最も発生頻度が高く、また、致死的な腫瘍疾患である。メラノーマは増殖、浸潤、転移が非常に速いことから、診断された時には既存の抗腫瘍治療(外科手術、抗がん剤)が不適応となることが多い。腫瘍増殖の基となるがん幹細胞は特に悪性度の高いがん細胞集団であり、腫瘍転移や再発の主な原因となる。ここで、がん幹細胞周囲の微小環境中に発現する炎症反応は、がん幹細胞の悪性化に係わる因子として、非常に重要である。 そこで、本研究ではイヌメラノーマにおける抗炎症-抗腫瘍効果を明らかにすることを目的として、計画された。研究のターゲットは、腫瘍微小環境中で発現する炎症反応を起こす「腫瘍特異的“活性化”経路の探索」とし、細胞内シグナル伝達経路のうちMAPキナーゼ系のERK5を中心に検討を行った。 実験にはイヌメラノーマの培養細胞(MCMN1)を使用し、この培養細胞に腫瘍プロモーター(発がん促進物質)であるホルボールエステル(PMA)で処理を行った。その結果、プロテインキナーゼC(PKC)が活性化され、腫瘍の微小環境因子の一つである炎症に関与するプロスタグランジン合成の律速酵素であるCOX-2のmRNA発現の促進が認められた。そして、PMA処理(誘導性)による刺激がどのような細胞内シグナル伝達経路を経てCOX-2の発現に至るのかを分子生物学的な手法を活用して検討した。 その結果、イヌメラノーマ細胞でPMA誘導性のCOX-2発現は、novel PKCおよびERK5を介する経路が関与することが明らかとなった。このことは、メラノーマが正常なイヌ細胞とは異なるERK経路を通じて炎症発現に係わっていることが示唆された。そのことから、この特異的な経路を抑制すれば、イヌメラノーマに対する副作用が少なく、効果的な治療法を開発することが可能となることから、本研究成果は重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、イヌの口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)におけるプロテインキナーゼCを介して、COX-2発現に至る経路は、正常なイヌの細胞では見いだせない経路であることが解明した。そのことから、この研究計画調書における目的欄にある、1. メラノスフィアの悪性化に対する炎症性サイトカインの影響、 2. ERK5経路を軸とした「腫瘍特異的"活性化"シグナル」による抗炎症-抗腫瘍効果の検討に関して、ほぼ目的を満たしていることから、概ね順調に伸展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、確立したシグナル伝達経路の阻害剤スクリーニングアッセイを用いて、ERK5の活性化を制御する新規シグナル経路の探索を行う。予備検討では、正常細胞でのERK制御系(MEK経路)とは異なる経路(PKC経路)が存在することを見いだしている。さらに、ノックダウン実験および免疫沈降実験を行って、各シグナル伝達経路の相互作用を解析する。
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Causes of Carryover |
申請の大半は、試薬とプラスチック器具等の消耗品である。これらはメラノーマ細胞を培養するために必要である。今年度の研究は、実験手順等を詳細に詰めた上で実施した結果、実験が効率よく進めることが出来、無駄が少なかったため、今年度の予算に残額が生じた。これを次年度使用額として計画したい。
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