2020 Fiscal Year Research-status Report
Possibility of tick-derived unknown virus infection to animals-Analisis of Togotovirus pathogenisity to animals
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19K06394
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
前田 秋彦 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (70333359)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マダニ媒介性感染症 / トゴトウイルス / 病原性 / 野生動物 / 中和試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
京都市に生息するマダニから分離したトゴトウイルスHl-Kamigamo-25株(WT-THOV)の哺乳類動物における病原性と、自然界における感染状況について検討するため、①WT-THOVのマウスでの馴化と、②京都市に生息する野生動物における感染疫学調査を実施した。 ①本研究課題の初年度の研究で、WT-THOVはハムスターに対しては致死的感染を起こすが、マウスは無症状であることが分かった。本年度は、THOVの自然発生変異体を作出する目的で、マウスへの馴化株(マウスへの感染により病変を示す変異株)の作製を試みた。BALB/cマウスにWT-THOVを感染させ肝乳剤を作製した。この肝乳剤中のウイルスを、マウスで20回繰り返し継代しMA-THOVを得た。MA-THOVをBALB/cマウスに接種したところ、感染後5~7日に斃死した。肉眼病理所見では、肺・肝臓など様々な臓器で顕著に出血が認められた。組織病理学的には、主に肝臓と脾臓において広範なアポトーシスやネクローシス像が観察された。今後はWT-THOVとMA-THOVの病原学や遺伝学的な解析を通して、THOVの感染種特異性を決定する因子について解析する予定である。 ②京都市内で、研究目的で捕獲したハクビシン、アライグマ等の野生動物の血清中に存在する中和抗体価を測定した。動物は、2005年~2020年までに捕獲した総数289匹について調査した。擬陽性を含めた陽性数は31匹(11%)であった。またアライグマは2013年~2018年まで捕獲した総数50匹中、4匹が陽性であった(8%)。これらの結果は、京都市の野生動物間で、WT-THOVの感染環が成立していることを示している。今後、ハクビシンとアライグマの陽性反応について精査するとともに、他の野生動物に関しても調査する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究申請時の研究案では、本年度の研究計画として①自然発生THOV変異株の作出と、②京都市内で捕獲された野生動物のWT-THOV感染調査を予定していた。それぞれの進捗状況について評価すると、①は「おおむね順調」に進んでいるが、改善すべきところもあるものと考える。一方、②については「順調」に進んでいるものと自己評価している。 まず、①の評価を「おおむね順調」とした理由は、自然発生THOV変異株を作出するための方法として「マウスへの馴化」を試みたところ、幸い、目的とする変異株(MA-THOV)が得られたためである。MA-THOVのマウスやハムスターへの感染病理学的解析も順調に進んだ。今後、MA-THOVの変異について遺伝学的に解析することで、マウスへの馴化に関与する原因因子の解明(感染種を超えるメカニズムの解明)につながるものと期待される。しかし、当初の研究計画では、変異原性物質を使用したウイルス変異体の作製や、温度感受性ウイルス変異体の作製などについても検討する予定であったが計画通りに実行することが出来なかった。 一方、②の評価を「順調」であると評価した理由は、研究方法として用いたウイルス中和試験法が感度良くWT-THOVの中和抗体を検出することが出来たため、これまでに収集してきたハクビシンやアライグマの血清中の中和抗体価の測定を効果的に行えたためである。中和試験法は、感度および精度が高く、多くのウイルス検査法のゴールドスタンダードとなっているが、感染性を持つウイルスを使用しなければならないことや、細胞培養等において熟達した技術が必要である。今回、使用した野生動物のサンプリング数は制限されているため順調に検査することが出来たが、今後、多くの検体を処理することを考慮すると、もう少し簡便な手法が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の成果を下に、WT-THOVの①病原性の解析と、②自然界における感染状況の調査をおこなう。 まず、①に関しては、これまでの研究でWT-THOVがマウスには病原性を示さないが、ハムスターには致死的で重篤な病原性を示すことを示した。また、本年度作出したMA-THOVがマウスに致死的感染を引き起こすことも明らかにした。そこで、今後はMA-THOVのゲノム変異と病原性の関連について分子生物学的手法を用いて解析する。もし、その変異がウイルスの表面蛋白質の遺伝子内に同定された場合は、ウイルスと細胞との結合親和性について解析する。また、ウイルスのRNA依存RNA合成酵素の遺伝子内に、変異が存在する場合は、ウイルスRNAの合成システムを構築し、その活性について検討する。さらに、将来的には、同定された変異を導入した組み換えウイルスを作出し、マウスへの病原性について解析する。さらに、本年度に実施できなかった変異原物質を使用したウイルス変異体の作製や、温度感受性ウイルス変異体の作製などについても検討する。 一方、②に関しては、これまでにサンプリングした野生動物(ハクビシンやアライグマ、野鼠など)の血清を用いた中和試験を実施する。次年度もコロナウイルス感染症の流行下にあり、フィールドワークが困難であると思われる。野生動物の血清の入手が困難となった場合は、これまでにサンプリングしてきた野生動物血清(中和試験していないもの)や家畜動物等、定期的にサンプリング可能な血清を用いて調査・解析する。また、これまで行った中和試験で擬陽性となったものについて精査する。さらに、中和試験より簡便で、一時に多くの検体の処理が可能な検査法の開発を目指す。 また、次年度は本研究課題の最終年度となるため、これまでに得られた成果を論文としてまとめるとともに、関連学会や研究会に報告する。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナウイルスに対する緊急事態の状況が続き、思ったように研究を推進できなかった。特に、出費のかかる細胞培養等の手法を用いたウイルス学的解析や、高価な試薬・キット類を必要とする細胞生物学的・分子生物学的解析を十分に実施できなかったため、研究費を次年度へ繰り越すことにした。 本年度からの繰り越す研究費については、次年度に予定しているウイルス変異株の細胞生物学的・分子生物学的解析に使用する。具体的な使用用途として、ウイルス変異部位の同定に必要な遺伝子解析費、変異ウイルス蛋白質や核酸の機能解析費、変異ウイルスと宿主因子との相互作用解析等である。また、研究を実行するための人件費として使用する予定である。
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