2019 Fiscal Year Research-status Report
クマ科動物における人工授精技術開発-臨床繁殖学的手法による動物園動物の繁殖支援-
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19K06415
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
柳川 洋二郎 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (20609656)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒグマ / ホッキョクグマ / 臨床繁殖学 / 繁殖生理 / 卵巣動態 / 排卵誘起 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではホッキョクグマおよびモデル動物としてヒグマも用いながら、繁殖生理を理解した上で人工授精技術開発により産子を得ることを目的とし、この過程において臨床繁殖学的手法に対する普及啓発のため、他種であっても繁殖検診や研究の依頼・可能性があれば実施することとしている。 2019年度はヒグマにおいて繁殖期(5-6月)より前の4月から繁殖期終了後の10月まで超音波画像により約1週間間隔で卵巣の観察をするとともに卵胞が直径10 mm程度まで発達した場合に性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を投与して排卵誘起を試みた。繁殖期初期までは直径6 mmを超えない範囲で卵胞が発達退行を繰り返していたが、6月になると卵胞は直径6 mm以上に発達した。卵胞の発達速度は繁殖期前半後半で異なり、それぞれ0.13 mm/日および0.21 mm/日であり、これにより排卵誘起に適した日を推定できるようになった。一部の個体では直径8 mm程度で卵胞が自然排卵したが、直径10 mm程度まで卵胞が発達しGnRHを投与した個体では排卵が誘起された。排卵後は卵胞の発達が確認されなかったため、ヒグマは単発情動物であると推察された。 また、これまで一度も繁殖歴のないホッキョクグマのペアにおいて交尾開始から5日後に人工授精とヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)による排卵誘起を実施した。人工授精時には直径約12 mmの卵胞が存在し、2週間後までに排卵が確認されたが、人工授精から174日後に死産を呈した。これ以外にも無排卵のマレーグマ雌において交尾開始から4日目にGnRHを投与したところ、糞中ホルモン動態から排卵が確認できた。さらにアフリカゾウの無排卵個体へのホルモン療法、ニホンザル、ウンピョウおよびチーターにおける人工授精などを動物園と共同で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒグマを用いた卵胞動態の解析からクマ科における排卵可能な卵胞のサイズが判明しかつ卵胞の発達速度から人工授精を実施するべき日のおおよその推測が可能となるなど、繁殖生理学的特徴の解明が進展した。また排卵誘起の方法については3年目までに確立する予定であったがヒグマ、ホッキョクグマ、マレーグマにおいて排卵を誘起することに成功している。一方で、ホッキョクグマの雄から精液を採取することで精液性状の評価基準を作成する予定であったが、新型コロナウイルスの影響により繁殖期に各園館への訪問が不可能となり実施できなかった。さらにヒグマにおける着床遅延関連タンパク質については同タンパク質を特定する抗体が北海道胆振東部地震時の停電により失活していることが判明し進展していない。しかしながらホッキョクグマにおいては臨床繁殖学的手法により、死産ではあるものの受胎・分娩に至ることができている。また、今年度の成果から他の園館から臨床繁殖学的支援に関する相談や協力要請が増えており、普及啓発の観点からは大きく進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒグマの卵胞動態が判明し排卵誘起も実施できるようになったことから、今後は人工授精の成功に向けて授精技術の向上を図り産子の獲得を目指す。ホッキョクグマにおいても参加園館の増加からデータの採取が増えることが見込めるため、精液性状の評価基準の作成や人工授精の実施例を増加させる。妊娠関連糖タンパク質については新たに抗体を作製するなどして同定を進める。
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Causes of Carryover |
同一の荷物の送料の伝票に対し2回購入依頼を提出していたため、片方の未執行されていた。しかし、残金を依頼ベースで確認していたため残金が0円になっていると思っており年度を超えてしまったため1,940の送料分が残存した。2020年度に消耗品費などとして使用する。
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Research Products
(7 results)