2020 Fiscal Year Research-status Report
クマ科動物における人工授精技術開発-臨床繁殖学的手法による動物園動物の繁殖支援-
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19K06415
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
柳川 洋二郎 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (20609656)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒグマ / ホッキョクグマ / 人工授精 / 臨床繁殖学 / 繁殖生理 / 卵胞動態 / 着床遅延 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物園動物は生息域外における保全のために一定の繁殖が求められているが、飼育下における自然繁殖が奏功せず飼育頭数が減少している種が数多いため、人工繁殖技術の適用も考えなければならないが、そのためには繁殖生理を理解した上における実施が必要である。前年度に明らかとなったヒグマにおける卵胞の発達速度をもとに人工授精の日程を決定した。卵胞直径が6 mm以上であった場合、1週間後には排卵可能な卵胞直径8~10 mmに発達していた。また排卵誘起にはGnRH(酢酸フェリチレリン)が20 μgで十分であること、また投与から18時間以内に排卵が生じるということが推察された。 また死亡したヒグマおよびホッキョクグマの雌性生殖器のCTおよびMRI撮影を実施したところ、両種とも子宮頚管の構造が複雑であり、内部にヒダを有していること、またヒダの数には個体差があることが確認できた。さらに、子宮頚管の腟側の開口部は動物の腹側に向けて開口していること、これをもとに授精技術を検討した結果、クマを仰向けにして炭酸ガス内腔を膨らませながら内視鏡で開口部を確認することで子宮内へ授精器具を挿入することが可能となった。 さらに野外で捕殺されたヒグマの子宮をもちいて着床遅延関連タンパク質について調査した結果、着床遅延中の個体における子宮腔内および子宮内膜組織中のタンパク質濃度は、非妊娠個体の濃度よりも高かった。特に子宮内膜組織中のタンパク質において90.8 kDaのタンパク質が着床遅延個体において多い割合で含まれることが明らかになった。 クマ科動物以外ではアフリカゾウ、レッサーパンダ、スマトラトラ、チーター、ウンピョウ、ツシマヤマネコなどの動物における精液採取や人工授精などを動物園担当者と共に実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒグマの卵胞の発達に合わせて人工授精のスケジューリングが実施できるようになり、排卵のプロトコルや排卵までの時間が明らかになったことで授精に適した時期の検討が可能となった。また子宮頚管構造の把握により、これまで困難であった子宮内への授精も可能となったため、人工授精に向けた準備が着実に進んでいる。着床遅延関連タンパク質については着床遅延中個体における子宮内膜組織中では、非妊娠個体とは異なるタンパク組成を有していることが明らかとなり、ターゲットの絞り込みが進んでいる。動物園における臨床繁殖学的支援についても実施例が着実に増えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒグマにおいて排卵誘起や子宮内授精が可能となったことから今後は授精適期の検討を行いながら産子獲得を目指す。ホッキョクグマについては精液採取や人工授精の実施を進める。妊娠関連糖タンパク質についてはタンパク質のみならず、生殖器中および血中で確認できる遺伝子の変化や相違を新たな評価項目として着床遅延個体の特性の把握を遂行する。
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