2019 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of mechanisms for recognition of natural substrate and its structure-function alternation by peptidylarginine deiminase
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19K06507
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
海野 昌喜 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (10359549)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | S100A3 / 蛋白質アルギニン脱イミノ化酵素 / 変異体 / 構造 / X線 / 複合体 / 構造変化 / PAD3 |
Outline of Annual Research Achievements |
毛髪キューティクル細胞に多量発現するS100A3は通常は二量体で存在するが、その51番目のアルギニン(R51)がシトルリン化されると四量体に構造変化を起こしながら、Ca2+やZn2+の親和性が協同的に上がる。このシトルリン化は共発現する蛋白質脱イミノ化酵素(peptidylarginine deiminase; PAD)によって触媒される。PADはCa2+によって活性化されることから、この生化学的プロセスはCa2+の恒常性維持に寄与するとともに、Zn2+の調節にも関与し、毛髪角化という得意な生命現象に重要な役割を担うと考えられる。また、PADのアイソザイムのうち、S100A3のR51を選択的にシトルリン化するのはPAD3であり、PAD1やPAD2は試験管内ではその他の4つのアルギニンもシトルリン化する。本研究ではそれらの特異な反応のメカニズムを原子レベルで解明するために、PAD3の構造やS100A3のCa2+/Zn2+結合四量体構造を解析する。 本年度は、まずPAD3のCa2+結合型の構造をX線結晶構造解析で明らかにし、その活性化型構造がわかった。今までの研究の積み重ねから、Ca2+が異常に高い濃度では、結合する部位が異なり、不活性型に陥ることがわかった。また、阻害剤のCl-amidineは、Ca2+が結合しないと結合しないことが我々の研究からも裏付けられた。 さらにS100A3のR51シトルリン化モデルとして、R51をグルタミンに置換したR51Qが最適であることも明らかにすることに成功し、学術論文誌に発表することができた。このR51QはCa2+/Zn2+の結合やそれと協同的に起こる構造変化もPAD3によってシトルリン化したS100A3と類似した挙動を示した。動的光散乱やX線小角散乱実験によって、分子外径が大きくなることも確認し、様々な構造をとっていることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PAD3の阻害剤複合体の構造や変異体の構造、およびCa2+結合型構造(活性型と不活性型の二種類)の構造を明らかにできたことで、PAD3の阻害機構を原子レベルで論じる準備ができるようになったとともに、アイソザイムであるPAD1, PAD2などとの原子レベル立体構造比較から基質認識の違いの機構について、原子レベルで解明する足掛かりをつけることができた。しかしながら、PAD3の基質複合体の構造解析には至らず、それらの議論も推定の部分が多く残る。 一方、S100A3 に関しては、シトルリン化した天然に近いタンパクの構造を明らかにするのは難しいと考え、R51Q変異体をモデルとして使うことを考案した。そして、この変異体の他、数種類の変異体を作成し、それらの物性を調べることによって、R51Qが最適モデルであることも実験的に証明することに成功した。このことは今後のS100A3の構造生物学的研究の進展に大きく寄与することになると考えられ、学術誌に論文を発表することができた。しかしながら、そのCa2+/Zn2+結合型四量体の構造解析に至らなかった点は、当初の予定よりも遅れていると言わざるを得ない。Ca2+/Zn2+結合型四量体S100A3は結晶化が難しい。一つの理由としては高塩濃度の条件下では、Ca2+とZn2+が外れてしまうことが当初から考えられていた。それゆえに、その条件を探していたが、まだ見つけられていない。もう一つの理由は、完全に四量体のみを分離することが予想以上に困難であることがわかった。X線小角散乱実験からは、四量体、二量体、六量体やあるいはそれ以外の構造が平衡状態で存在することが示唆された。これらの実験事実から、思ったように研究が進展し切らなかった点が残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
PAD3に関しては、引き続き、基質結合型の構造解析を目指す。アプローチの仕方は、低分子の基質アナログと共結晶化を目指すことと並行して、生体内の天然基質であるS100A3との複合体の構造解析を行う。PAD3の活性残基である636番目のシステインをアラニンに変異したC646A変異体の結晶化やCa2+結合型の構造解析には成功しているので、その条件をもとに基質アナログとの複合体の結晶の回折データを取得を最優先課題とするが、S100A3との複合体の結晶化とクライオ電顕を使った解析も行うことも並行して行っていく。一度、基質アナログの電子密度を確認できたことはあったが、占有率が低く、周囲のアミノ酸残基の電子密度が不明瞭であった。基質アナログの濃度を上げたり、ソーキング時間を延ばすことで、この問題は解決できる可能性が高い。また、クライオ電顕解析については、筑波大学や高エネ研との協力のもと、是非成功させたい課題である。 S100A3についてはR51Qが最適な変異体だと考えられたが、四量体化が推定より進行しなかった問題点が残ったため、R51以外の4つのアルギニンをグルタミンに変異した四重変異体の作製を想定している。四つのグルタミンの導入により、四つのアルギニンがシトルリン化されたものと表面チャージが近くなり、毛髪キューティクルの中の状況に近いタンパクの構造解析ができるのではないかと期待している。この四重変異体の解析では、PAD3によってシトルリン化されたS100A3というよりは、PAD3をはじめとしたPAD1, PAD2による総合的なシトルリン化反応のモデルとして、毛髪角化機構について論じることを促進出来ると考えている。
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[Journal Article] Structure determination of the human TRPV1 ankyrin-repeat domain under nonreducing conditions2020
Author(s)
Tanaka, M., Hayakawa, K., Ogawa, N., Kurokawa, T., Kitanishi, K., Ite, K., Matsui, T., Mori, Y., Unno
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Journal Title
Acta Cryst.
Volume: F76
Pages: 130-137
DOI
Peer Reviewed
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