2020 Fiscal Year Research-status Report
光学的p38活性制御により明らかになる細胞増殖抑制シグナルの時間情報コーディング
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19K06548
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
冨田 太一郎 東邦大学, 医学部, 講師 (70396886)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ストレス応答 / キナーゼ / 増殖抑制 / シグナル伝達 / 光操作 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、代表的なストレス応答MAPKシグナルに着目し、特に細胞の増殖抑制に作用するMAPK活性を光照射により自在に制御する新しい手法の実現と、これを用いてがん細胞の増殖および細胞死へのストレス応答MAPKの関与を解明することを目指している。抗がん剤等の各ストレスにより惹起される細胞内ストレス応答シグナルには、単なる活性上昇以外にも、時間や細胞内局在の変化を伴う。このような時間や空間に依存した変化にはさまざまな変動パターンがあるため、そのようなパターンに依存して細胞応答の制御が生じる可能性が考えられた。令和元年度には、FRETの原理に基づくストレス応答MAPK活性の可視化イメージングと光によるMAPK活性操作系とを同一の細胞で実現する系の作成を試みたが、この方法では両者を独立に制御できないという問題があった。そこで、FRET測定と光学操作との両方を同時に実現させるための新規のレポータ実験系を試みて、光照射なしにp38MAPK活性を測定する新規のタンパク質性のレポータの構築に成功していた。令和2年度は、この新たな測定系の感度を改善させることを試み、アミノ酸配列の最適化を行って、より高感度なレポータを得ることに成功した。この実験系を各種の培養細胞に導入したところ、筋芽細胞由来C2C12や結腸癌由来HCT116等の培養細胞系において、実際に高感度にp38MAPK活性測定が可能であることを確認できた。また、この高感度化の結果、細胞内局所のp38MAPK活性の検出も可能であることがわかった。今後は、癌細胞モデルにおいて抗がん剤等で刺激した際のMAPKシグナルの動的挙動と細胞機能との対応を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標として、癌細胞においてp38MAPK活性のリアルタイム測定と光操作実験系との両立を実現させ、さらに内在のシグナルを任意に変化させた際の細胞応答の変化を捉えることを狙っている。前年度に光照射なしでp38MAPK活性を光学測定可能にする新規のFRET-BRET観察系(発光型FRET)を構築することに成功していたため、本年度はこれを改良する各種の変異をレポータに導入し、高効率にキナーゼ活性を検出できるコンストラクトを選別した。その結果、より高感度なレポータを得ることに成功した。また、感度上昇に成功したことで、細胞核や細胞膜近傍への局在シグナルを付加したレポータでも高感度にp38MAPK活性を検出可能になった。これにより、p38MAPKについて、時間・空間的な解析が十分に可能になった。そこで、さらに、各種のヒト癌由来培養細胞株に新規p38MAPK測定系を導入して試験し、現在までに複数の癌由来株(HCT116、HeLa)で同様の高感度シグナルを可視化測定できることを確認した。トランスポゾンによる遺伝子導入系(Piggybac発現系)を用いて、p38レポータを培養細胞株に導入し、レポータ安定発現株のスクリーニングが進んでいる。今後、この株に抗がん剤処理を行って惹起される内在のp38MAPK活性動態を解明する。本年度のレポータ改良と前年度までに構築済の光操作実験系の2つにより、今後の解析で必要となる本研究の技術的な課題についてはほぼクリアすることができた。以上から、本研究は当初の計画に沿っておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、新規p38MAPK活性可視化系およびp38MAPK活性の光操作系を用いて、p38MAPK活性の変動が癌由来細胞の増殖シグナルに及ぼす作用を解明する。現在、結腸癌由来HCT116細胞株への、レポータ導入および光操作実験系の導入を進めており、この細胞株を用いて、典型的なストレスおよび抗がん剤(イリノテカン、フルオロウラシル)を処置した際に細胞内に生じるp38MAPK活性の時間変動パターンを明らかにして、p38MAPKの動的な活性変動がもたらす生理機能を探る。生理機能としては、がん増殖抑制の主要な標的となる細胞周期制御および細胞死制御の2つに着目し、惹起されるp38MAPKの変動パターンと生理機能発現との対応関係を解明する。また、同時に、光操作により任意のタイミングでp38MAPK活性を変動させることにより、癌細胞の増殖抑制に有効なp38MAPK動態のパターンの解明を目指す。従来、ストレス応答シグナルとしてp38MAPK活性は細胞周期の抑制および細胞死制御に関わることが知られるが、従来は、p38活性を促進するか抑制するかの2つであり、時空間的なp38活性変動の観点からの研究はほとんど前例がない。そこで本研究では、生きた癌細胞の中で直接的にキナーゼ活性を実時間に制御可能にすることにより、動的なキナーゼ活性変動の生理的意味と意義の理解を深めたい。
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Causes of Carryover |
購入予定であった輸入品の消耗品プラスチック器具の納期がコロナ対応により2ヶ月程度の遅れが発生し、年度内の購入ができずその分の差額が生じた。繰越した差額により、翌年度に購入する計画である。
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Research Products
(1 results)