2020 Fiscal Year Research-status Report
膜内切断プロテアーゼの活性制御と基質導入機構の解明
Project/Area Number |
19K06558
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
二井 勇人 東北大学, 農学研究科, 准教授 (90447459)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 膜内切断プロテアーゼ / 認知症 / 酵母 / 酵素 / 脳・神経 / プロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
膜内切断プロテアーゼは、膜内で加水分解を行う特殊なプロテアーゼで、どのようにして反応を遂行するのかについて、よく分かっていない。本研究では、モデル生物である出芽酵母に切断反応を再構成した独創的な解析手法をとり入れ、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβ(Aβ)を作り出すγセクレターゼ複合体とそのモデルとなる単量体膜内切断プロテアーゼによる分解のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 令和2年度においては、γセクレターゼについての研究では、1)昨年に引き続き、家族性アルツハイマー病(FAD)変異を持つAPPの切断効率の低下を回復させる変異を多数同定した。また、それらの変異が野生型APPの切断効率をも上昇させることを明らかにした。2)γセクレターゼの調節サブユニットであるAph1のプロテアーゼ活性化変異について、マウス胎児線維芽細胞 (Aph1TKO MEF)に導入して解析した。Aβ生成量を増加させる一方で、γセクレターゼの複合体形成量は変化しないことを示した。また、MEF細胞の膜画分と蛍光ペプチド基質を用い、Aph1活性化変異によりγセクレターゼの触媒効率が上昇することを示す結果を得た。3)Aβの産生を抑制することが知られているCurcuminの誘導体(GT863)について、酵母の試験管内アッセイ系を用いて解析し、GT863はγセクレターゼの活性を直接阻害するのではなく、γセクレターゼの小胞輸送を阻害することによりAβの産生を抑制することを明らかにした。 単量体膜内切断プロテアーゼについての研究では、ヒトSite-2プロテアーゼ(S2P)とヒトロンボイド RHBDD1による基質切断の再構成系の改良を試みた。酵母の内在性プロテアーゼによる切断が問題であったため、種々のプロテアーゼの破壊株を作成したが、単一の遺伝子破壊によって内在性の切断が大きく低下することはなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施を予定していた(I)γセクレターゼ活性調節機構の解明、(II)膜内切断プロテアーゼの基質導入機構の解明について、それぞれについて達成度を自己評価する。 (I)酵母γセクレターゼ発現系を用いたスクリーニングで、アミロイド前駆体から切断感受性を上げる変異体を発見し、切断感受性低下するFAD変異と逆の作用を持つ変異を同定したことは意義深い。2019年にShi博士らにより報告されたAPPとγセクレターゼのES複合体の立体構造情報を元に、切断が活性化する分子機構を検証中であり、γセクレターゼ複合体の活性制御機構を解明する糸口となると期待される。γセクレターゼの制御サブユニットAph1の活性化変異体の解析では、実施年度を前倒しして行い、速度論的解析から、触媒効率の上昇を示唆する結果を得た。また、AβやTauへの効果が知られていたCurcumin誘導体の解析から、小胞輸送の改変がγセクレターゼの活性に影響を及ぼすことが明らかとなった。 (II)ロンボイドRHBDD1とSite-2プロテアーゼ(S2P)の解析では、活性評価系の構築が難しく、予定していた種々の変異体の解析が行えなかった。異なる基質を試みるなど今後、最適化する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、γセクレターゼと単量体膜内切断プロテアーゼの分解のメカニズムを解析する研究を進める。単量体膜内切断プロテアーゼの解析で遅れが見られるが、先行するγセクレターゼの解析を優先して行い、最大限の成果が得られるように対応する。2年目までに同定した多数のAPPの切断感受性変異体と、γセクレターゼとAPPのES複合体の立体構造情報をもとに、APP切断活性が変化する分子機構を解明する展望が開けた。γセクレターゼの基質切断部位の配列特異性は低く、基質特異性についてはよく分かっていない。切断されやすい膜貫通ヘリックスと切断されにくい膜貫通ヘリックスについて、何が異なるのかを知ることが、γセクレターゼを標的とした阻害剤の開発に向けて、重要な知見となる。3年目は、哺乳類細胞での検証と速度論解析により、膜内切断プロテアーゼへの基質導入機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
実験計画は概ね計画通りに進んだが、酵母を持ちた再構成系の一部が構築できず、予定していたいくつかの支出について行わず、次年度使用額が生じた。令和3年度において、酵母と哺乳類細胞を用いた実験に使用する。
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