2020 Fiscal Year Research-status Report
細菌Ⅲ型分泌装置構成因子が受ける新奇な翻訳後多段階プロセシングの分子機構
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19K06562
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
檜作 洋平 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (70568930)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大腸菌 / べん毛 / III型分泌装置 / Rhomboid / 膜内切断プロテアーゼ / 基質認識機構 / ジスルフィド架橋 / タンパク質間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、申請者が見出した細菌べん毛III型分泌装置構成因子FliOの翻訳後多段階プロセシングについて、「切断」と「修飾」の二点の解析を通して膜タンパク質の新たな翻訳後機能調節機構にアプローチするものである。本年度は、主にGlpGによるFliOの切断の分子機構に焦点を当てて研究を行い、以下の研究成果を得た。 (1) FliOの基質認識機構の解析:Rhomboidファミリープロテアーゼの基質認識条件として、切断部位周辺の基質認識モチーフ及び基質膜貫通領域のヘリックス不安定性の二点が基質認識・切断に重要であることが知られている。FliOの膜外ドメインの2か所の切断部位を、膜貫通領域から遠い部位をdistal site, 近い部位をproximal siteと定義し、それぞれの切断において基質認識条件の重要性を検証した。その結果、i) 基質認識モチーフはdistal, proximal siteともに切断に極めて重要であること、ii) 基質膜貫通領域のヘリックス不安定性については、膜貫通領域に近いproximal siteではヘリックスの不安定化が切断に重要である一方、distal siteではそれほど重要ではないことが明らかとなった。これらの結果はGlpGの基質認識機構において新たな視点を与えるものである。 (2) ジスルフィド架橋によるGlpGとFliOの相互作用解析:GlpGとFliOの相互作用様式を明らかにするため、Cys残基導入変異体間のジスルフィド架橋解析を行った。既知のGlpGと異種の基質ペプチドの共結晶構造から予測したGlpG-FliO間相互作用残基間の架橋を試みたところ、効率よく架橋が形成される変異体ペアを見出した。この結果はモデルRhomboidプロテアーゼであるGlpGと、native基質であるFliOの残基レベルでの相互作用様式を初めて示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は申請書の研究実施計画の項目と対応する、(A) 膜内切断プロテアーゼGlpGによるFliOの「切断」の構造学的、酵素学的解析と、(B) FliOの新奇な「N末端アシル化修飾」の実体解明の二点から構成される。本年度は(A)のGlpGによるFliOの切断の分子機構に関する解析を中心に研究を行い、【研究実績の概要】に示した(1)、(2)の成果を得た。(1)のRhomboidファミリープロテアーゼの既知の基質認識条件である基質認識モチーフ及び基質膜貫通領域のヘリックス不安定性の二点に着目したFliOの詳細な変異体機能解析からは、基質の膜貫通領域と切断部位との位置関係によって従来の基質認識条件の重要性が変化するという新たな基質認識機構を示唆する結果が得られた。この成果はRhomboidプロテアーゼの基質認識における普遍的な分子機構を理解する上で重要な分子的基盤を与えるものであり、学術的価値の高い成果と言える。また、(2)のGlpGとFliO間のジスルフィド架橋解析は、昨年度に実施したGlpGとFliO間のin vivo光架橋解析をさらに進展させたものであり、これらの解析から明らかとなったGlpGと基質との相互作用様式に関する成果は、GlpGによる基質認識機構を構造学的に理解する上で欠くことのできない重要な知見を与えるものである。以上の成果は本研究計画の項目(A)にあたるGlpGによるFliOの「切断」の構造学的視点からの解明に迫るものであり、当初目的を達成しつつある点で、実施二年目の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると判断する。なお、本年度の特筆すべき事情として、年初より本格化した新型コロナウイルスに対する感染対策のため、本学における研究活動にも一時的に大きく制限が掛かることとなった。その点を考慮すると充分な進捗状況であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題最終年度となる次年度は、ここまでの研究により得られたGlpGの新奇生理的切断基質としてのFliOの基質認識・切断機構に関する知見を学術雑誌に論文として投稿・発表することを見据え、研究成果を取りまとめる方向で引き続き研究を進める。既に学術論文のコアとなる実験結果は得られつつあるので、論文化に向け着実に研究を進展させる。具体的には、GlpGとFliO間の相互作用様式及び基質認識機構をより詳細に明らかにすべく、より補完的な残基レベルでの架橋解析、基質認識モチーフや未着手の基質結合領域(exosite)の変異体を用いた機能解析、また共免疫沈降解析等の生化学的解析による相互作用解析等も織り交ぜて解析を行うことで、既に得られた実験結果を補強しつつ、新たな知見の取得を目指す。また、項目(B)のFliOの新奇な「N末端アシル化修飾」の実体解明に向け、当初研究計画であるFliOの細胞膜外でのN末端アシル化修飾を促進する未知の修飾酵素の同定、遺伝学的解析によるFliOのN末端アシル化の分子機構及び生理的意義の追及を目指す。さらに大腸菌全膜タンパク質を対象とした網羅的質量分析(MS)アプローチにより膜タンパク質のN末端アシル化修飾の普遍性に関する手掛かりを得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
今年度の使用状況:特筆すべき事情として、新型コロナウイルスに対する感染対策のため、本学における研究活動は一時的に大きく制限され、年間を通しての消耗品や一般試薬の消費量は当初の見込みよりも全体的に減少した。(物品費)今年度は架橋解析や変異体を用いた遺伝学的・生化学的解析が主となり、研究室の保有機器及び保有試薬、消耗品、研究所の共同利用機器を使用することで研究遂行が可能であった。(旅費)新型コロナウイルスの感染対策として参加を予定していた学会・研究会が中止、あるいは現地開催からWEB開催へと変更になる等したため、学会参加費、旅費・宿泊費等が必要なくなり、使用額が減少した。同じく共同研究の打ち合わせ等もWEB会議が主となり、出張関連費等の使用額が減少した。 次年度の使用計画:(物品費)研究の進捗状況により、in vitro切断アッセイ系の構築に必要となる脂質や蛍光試薬、無細胞タンパク質合成キット等、パルスチェイス解析におけるタンパク質標識用の放射性同位体標識メチオニン等、免疫沈降実験に用いる抗体等の購入費を計上する。(人件費・謝金等)in vitro切断アッセイに用いる蛍光標識ペプチドの合成委託費を計上する。FliOの未知の修飾酵素が同定できた場合、その抗体作製費用及び抗原ペプチド合成費用を計上する。学術論文作成のため、英文校閲費等を計上する。(その他)学術雑誌への論文投稿料を計上する。
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Research Products
(4 results)