2019 Fiscal Year Research-status Report
Protein structure analysis using data assimilation of simulation and experimental data
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19K06598
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渕上 壮太郎 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (00381468)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
末松 和美 (七種和美) 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (60608769)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | データ同化 / シミュレーション / イオンモビリティ質量分析 / X 線小角散乱 / マルコフ状態モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、多様な立体構造を取り得るタンパク質をターゲットとして、粗視化シミュレーションと実験の観測データとを融合させるデータ同化の手法を用い、実験結果を適切・的確に説明し得る構造アンサンブルの作成を試み、多様な立体構造の実態を解明することを目指す。具体的な計測法として、「イオンモビリティ質量分析(IM-MS)法」と「X線小角散乱(SAXS)法」を取り上げる。本年度は以下の課題に取り組んだ。 ◇IM-MS法:観測データであるタンパク質分子の衝突断面積を粗視化モデルから算出するには粗視化粒子の半径を設定する必要があるが、シミュレーションで使われている排除体積のパラメータ値では小さ過ぎることが判明した。そこで、安定な構造を取る様々な分子量のタンパク質17種を用いて、粗視化粒子の最適な半径を決定した。その際、粗視化粒子の半径をアミノ酸残基に依存させず同じ値にする場合と依存させて変化させる場合とを試してみたが、大きな違いは見られなかった。このように検証された衝突断面積の算出法を用いて粒子フィルタ・シミュレーションを実行すべく、H2A/H2B二量体をターゲットとして、尤度の計算方法を検討した。 ◇SAXS法:観測データであるタンパク質水溶液の散乱曲線を粗視化モデルから算出するため、全原子モデルを経由する方法を構築・確立し、H2A/H2B二量体をターゲットとして、核磁気共鳴法で決定された10個の構造に適用した。得られた散乱曲線の実験結果からのズレは構造によって有意に異なり、このズレをもとにした尤度を用いることで実験下の構造を推定可能と考えられる。続いて、通常と粒子フィルタ法のシミュレーションを実行したところ、通常のものでは幅広い多様な構造分布となったが、粒子フィルタ法で得られ実験情報を加味した構造分布は幅の狭いものとなり、より妥当な構造アンサンブルを得ることが可能であることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、多様な立体構造を取り得るタンパク質をターゲットとして、実験結果と定量的に一致する妥当な構造アンサンブルを粗視化シミュレーションによって推定する手法の構築・確立を目指しているが、本年度は、IM-MS法とSAXS法のいずれにおいても、粒子フィルタ法を用いた手法の構築がおおむね完了し、具体的なターゲットへの適用を始めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、シミュレーションだけでは再現が困難なタンパク質を対象として、IM-MS法やSAXS法で得られる観測データを組み合わせるデータ同化によって、構造アンサンブルを推定する手法の開発・確立を目指す。研究対象としては、立体構造のサンプリングが困難なタンパク質分子である(1)ヒストンタンパク質複合体H2A/H2B二量体、(2)ヒストンタンパク質H3のヒストンテール、(3)基本転写因子TFIIE、の3つを取り上げる。 まず、前年度に引き続き、1つ目のH2A/H2B二量体について、IM-MS法とSAXS法それぞれの観測データを用いた粒子フィルタ・シミュレーションによって、実験結果を再現する構造アンサンブルの推定を行うとともに、手法の妥当性・有効性について検証を行う。また、この推定で得られた結果を、通常のシミュレーションで得られる構造アンサンブルとの比較や、マルコフ状態モデル(MSM)をはじめとする各種の方法で解析することで、構造アンサンブルの特徴を把握し、時空間的に多様な運動の実態やその動的機構、機能との相関を明らかにすることを目指す。 続いて、残りの2つの研究対象であるH3のヒストンテールとTFIIEについても、立体構造モデルを構築し、通常の粗視化シミュレーションを実行し、運動の特徴を明らかにするための解析を行う。さらに、IM-MS法やSAXS法で得られた観測データを用いて、粒子フィルタ・シミュレーションを実行し、実験結果を適切に説明し得る構造アンサンブルの作成を試みる。また、1つ目の対象と同様に、得られた結果に対して様々な解析を実施し、それぞれのタンパク質の構造アンサンブルや運動の特徴を明らかにする。 以上の研究を通して、多様な立体構造を取るタンパク質に関して、実験の観測データに合致するような適切な構造アンサンブルを推定する手法と、運動の特徴を明らかにする解析法の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、主に以下の3つが挙げられる。(1)研究分担者である七種の購入したファイルサーバが想定より安価に購入できた。(2)研究分担者である七種の所属変更と、研究代表者である渕上の所属地での打ち合わせが実現できなかったことに伴い、旅費が想定よりも低額で済んだ。(3)論文の執筆投稿まで至らず、そのために計上していた予算を執行できなかった。 使用計画については、旅費や論文投稿に関する当初予算の不足分に充てるとともに、研究分担者である七種が研究成果を発表する際に使用するノートパソコンを購入する。
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