2020 Fiscal Year Research-status Report
DNA損傷応答クランプ9-1-1の装着から脱装着までの反応ネットワークの解析
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19K06613
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大橋 英治 九州大学, 理学研究院, 助教 (90378951)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | DNA損傷 / 二本鎖DNA切断 / DNA損傷チェックポイント / DNA修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
9-1-1(Rad9-Hus1-Rad1)クランプ複合体は、DNA損傷時に生じる一本鎖DNAと二本鎖DNAの境界に装着され、DNA損傷チェックポイントやDNA修復に機能すると考えられている。このように9-1-1は多機能であるが、9-1-1がDNAに装着されてからどういう過程を経て、脱装着されるに至るのかについては不明な点が多い。本研究では、この9-1-1がDNAに装着されてから除去されるまでに起こる複数の反応の分子メカニズムを明らかにすることを目標とした。 まず、環状の一本鎖DNAにオリゴDNAをアニーリングしたDNAをアフリカツメガエルの卵核質抽出液(NPE)に加えると、9-1-1依存的にDNA損傷チェックポイント活性化の指標となるChk1のリン酸化が見られた。一方、線状二本鎖DNAをNPEに加えた場合ではChk1のリン酸化は見られたものの、Rad9を免疫除去してもほとんどその程度は変わらなかった。このことから、我々は、二本鎖DNA切断後には9-1-1と重複してチェックポイント活性化を担う因子が存在すると予想し、実際、MRN(Mre11-Rad50-Nbs1)複合体がその役割を果たすことを見出した。興味深いことに9-1-1とMRNの両者を除去した場合にはChk1のリン酸化が見られなくなるだけでなく、二本鎖DNAの末端削り込み反応自体がほとんど起こらなくなることを見出した。さらに、この削り込み反応とチェックポイント活性化の関係を調べるために、削り込み反応の主要な因子であるDna2とExo1の両方を除去すると、実際に削り込み反応がほとんど起こらなくなり、この時、チェックポイント活性化もほとんど見られなくなった。これらより、削り込みが起こっていること自体がDNA損傷チェックポイントのシグナルとなり得ることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、アフリカツメガエルの卵核質抽出液(NPE)から9-1-1を免疫除去し、ヒト由来の精製9-1-1を加えて機能するか調べたところ、9-1-1に依存したChk1のリン酸化は回復しなかった。本年度は、ツメガエル由来の9-1-1をコードするcDNAをそれぞれ得て、昆虫細胞を用いて発現させ、精製した。これを9-1-1を除去したNPEに加えたところ、Chk1のリン酸化が回復した。このように、NPEで機能する精製9-1-1が準備できた。 また、昨年度は、環状の一本鎖DNAにオリゴDNAをアニーリングしたDNAでは9-1-1に依存したチェックポイントの活性化を確認できたのに対し、線状二本鎖DNAをNPEに加えた場合のチェックポイント活性化には9-1-1は必要なかった。本年度はこれについて解析を進め、線状二本鎖DNAをNPEに加えた場合には、9-1-1とMRN(Mre11-Rad50-Nbs1)が重複してチェックポイント活性化を行うことを見出した。さらに、9-1-1とMRNの両者がない場合にはチェックポイント活性化がほとんど起こらないのに加え、DNA末端の削り込みもほとんど起こらなかった。そこで、削り込みを担う2つのヌクレアーゼ、Dna2、Exo1を同時に除去したところ、実際に削り込みが起こらなくなり、チェックポイントの活性化もほとんど起こらなくなった。このように、9-1-1がチェックポイントと削り込みの両方に関与していることと、削り込み自体がチェックポイントの活性化に重要であることを示唆するデータを得ており、今後のさらなる進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、9-1-1やMRNが削り込みとチェックポイントの活性化を行う仕組みを明らかにする。まず、これらをDna2やExo1などと9-1-1やMRNを同時に除去した場合の削り込みやチェックポイントの活性化を調べる。また、DNA上に集合する因子の変動を調べるためにDNAプルダウンの系を確立する。経時的にプルダウンを行い、削り込みの進行とともにどのような因子がDNA上にリクルートされるのか調べる。このような実験を9-1-1やMRNを免疫除去したNPEでも同様に行ってDNA上に呼び込まれる因子の変化を調べる。DNA上に呼び込まれる因子の変動があれば、変異型の精製9-1-1やMRNを反応系に加えることで、9-1-1やMRNのどの機能が因子の変動に重要なのかも調べる。さらに、近接依存性ビオチン標識法も合わせて用いることで、DNA上で9-1-1やMRNがどのような因子と一緒に反応を行っているのかを知る手掛かりとする。このようにして、9-1-1やMRNが重複して削り込みやチェックポイントの活性化を促進するメカニズムを調べる。
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Causes of Carryover |
令和2年度はコロナ禍で実験が一時中断せざるを得なかったこと、また旅費として考えていた予算を消費できなかったことの2つが次年度使用額が生じた主な理由である。令和3年度には、DNA上に呼び込まれるタンパク質因子の同定に伴い、多種類の抗体や対応するプラスミド作成などに出費が見込まれるため、妥当な使用額が確保できていると考えている。
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Research Products
(2 results)