2021 Fiscal Year Research-status Report
DNA損傷応答クランプ9-1-1の装着から脱装着までの反応ネットワークの解析
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19K06613
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大橋 英治 九州大学, 理学研究院, 講師 (90378951)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DNA損傷 / チェックポイント / DNA修復 / 二本鎖DNA切断 / 削り込み |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA損傷チェックポイントクランプ9-1-1(Rad9-Hus1-Rad1)は、リング状のヘテロ三量体で、DNA損傷後のさまざまな反応に多面的に働く複合体である。9-1-1複合体がDNA上に装着されてから脱装着されるまでに起こる反応のうち、本研究過程では、DNA損傷チェックポイント活性化とDNA修復の部分過程の両方が検出できる二本鎖DNA切断(DSB)に着目した。DSBが起こり、相同鎖を用いた比較的正確な修復が行われる前には、DSB末端から二本鎖のうちの片方が削り込みを受け、一本鎖が露出する。9-1-1はこの一本鎖/二本鎖の境界部分に装着され、主要なDNA損傷チェックポイントキナーゼであるATRの活性化やDSB後の修復に関わると考えられてきた。本研究では、昨年度までにDSB後を模したDNAをアフリカツメガエルの卵核質抽出液(NPE)に加えて、チェックポイントの活性化およびDSB末端の削り込みを検出できる系を確立した。昨年度にはこの系を用いて、9-1-1とMRN(Mre11-Rad50-Nbs1)が重複する形でチェックポイントの活性化と削り込み反応の両方を促進することを見出した。また、9-1-1とMRNは削り込みに主要な役割を果たすDna2やExo1ヌクレアーゼによる削り込みを促進することを見出した。当該年度は、ATRともう一つの主要なチェックポイントキナーゼであるATMがこの削り込み促進に部分的に関与すること、また9-1-1とMRNがおそらくTopBP1を介してATRを活性化することを示した。これらの成果は学会等で発表しており、投稿論文も準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アフリカツメガエルの卵核質抽出液(NPE)を用いたDNA損傷チェックポイントとDNA修復の進行を検出する系を用いて研究を進めた。NPEに二本鎖DNA切断(DSB)以降のDNAを模した基質を加えると、チェックポイントが活性化されたことを示すChk1のリン酸化を検出できる。また、相同鎖を利用した修復に必要なDSB末端の削り込みの進行も検出できる。さらに、NPEから特定のタンパク質(複合体)を免疫除去することにより、そのタンパク質(複合体)の機能解析が可能である。昨年度には、9-1-1とMRN(Mre11-Rad50-Nbs1)複合体がチェックポイント活性化とDSB末端の削り込みの両反応の促進に重複して機能することを見出していた。また、9-1-1とMRNは、いずれも削り込み反応に重要な2つのヌクレアーゼであるDna2とExo1を促進することを見出していた。当該年度は、さらにこの削り込み反応の促進にチェックポイントの主要なキナーゼであるATMやATRが部分的に関わることを示した。おそらく9-1-1とMRNはこれらのキナーゼより直接的にDna2やExo1を促進すると考えられる。また、9-1-1とMRNのいずれも、おそらくTopBP1というATR活性化因子を介してATRを活性化することも示した。これらの因子と共にDNA上に集合する因子の変動を調べる目的でDNAプルダウンの系の確立を試みたが、まだ安定した結果を得られていない。これらの成果は学会やワークショップで発表し、現在、投稿論文を準備している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、9-1-1やMRNがチェックポイントの活性化(ATR活性化)と削り込みを促進する仕組みをより詳細に調べる。9-1-1がATRを活性化する仕組みはよく知られているので、MRNのどのサブユニットのどの領域がATR活性化に重要であるかを調べる。同様にして9-1-1やMRNが削り込みを促進する仕組みを解析する。また、DNA上に集合する因子の変動を調べるためにDNAプルダウンの系の確立を試みる。再現よく結果が得られるようになれば、経時的にプルダウンを行い、削り込みの進行とともにどのような因子がDNA上にリクルートされるのか調べる。9-1-1やMRNを免疫除去したNPEでも同様の実験を行うことにより、それぞれに依存してDNA上に呼び込まれる因子を調べる。DNA上に呼び込まれる因子の変動があれば、変異型の精製9-1-1やMRNを反応系に加えることで、9-1-1やMRNのどの機能が因子の変動に重要なのかについても調べる。さらに、近接依存性ビオチン標識法も組み合わせた解析も試みる。このようにしてDNA上で9-1-1やMRNがどのような因子と一緒に反応を行っているのかを知る手掛かりとする。以上により、9-1-1やMRNが重複して削り込みやチェックポイントの活性化を促進するメカニズムに迫る。
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Causes of Carryover |
研究資材の納入が遅れたり、新型コロナ感染に伴う子供のクラスの学級閉鎖、ワクチン接種に伴う副反応などで研究室に来れない日が生じたりしたことで、思うように実験を進められない時期があった。そのため、研究計画が後ろ倒しになった。次年度使用額については、組換えタンパク質を発現するための昆虫細胞やヒト細胞の数を計測する機器の購入とプラスチック器具、試薬などの消耗品に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)