2019 Fiscal Year Research-status Report
Clarification of molecular basis for high mutation frequency induced by heavy ion beams
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19K06622
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石井 公太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 協力研究員 (50632965)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
風間 裕介 福井県立大学, 生物資源学部, 准教授 (80442945)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 重イオンビーム / DNA修復 / 線エネルギー付与 |
Outline of Annual Research Achievements |
重イオンビームは電離放射線の一種であり、高い線エネルギー付与(LET)をもち高頻度に変異を誘発する。研究代表者らはシロイヌナズナへの照射実験でLET = 30 keV/μmが最も変異率が高いことを発見した(至適LET)。至適LETでの照射当代での変異率は、LET = 22.5 keV/μm(低LET)での照射時の約2.5倍を示す。7.5 keV/μmのLETの差による変異率上昇はビームの物理的な作用では説明できない。研究代表者らは至適LETでの重イオンビーム照射時にRPA1E遺伝子が高発現することと、RPA1Eの機能欠損変異体では至適LET照射時の変異率が低LET照射時と同等となることを発見した。これらの結果から、RPA1Eの発現上昇によりDNA二重鎖切断(DSB)部位へのRAD51のリクルートが阻害され、その結果誤りやすいDSB修復を促進させるという仮説を考案した。本研究では、至適LETと低LET照射時のDSB部位に結合するRAD51とPolθの量を比較し、また全ゲノム変異解析によりPolθを介したDSB修復の頻度を比較して本説を実証し、重イオンビームによる高頻度変異誘発の生物学的背景を明らかにする。2019年度は研究に必要な材料の作製や環境整備を行った。1) RPA1E過剰発現変異体の作製を行った。2) 野生型シロイヌナズナの乾燥種子に低LETと至適LETでそれぞれ重イオンビームを照射し、照射2世代目の個体の全ゲノム変異解析を行った。3) シロイヌナズナのPolθとRPA1Eのアミノ酸配列の一部分を抗原としてポリクローナル抗体を作製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は以下の3つの実験を行った。1) RPA1E過剰発現変異体の作製:過剰発現プロモーター35Sの下流にRPA1E遺伝子を結合したコンストラクトをシロイヌナズナ野生型に形質転換した。形質転換後3世代目での抗生物質耐性表現型の分離比から、35S::RPA1E遺伝子を1コピーのみもつ系統を特定した。2) シロイヌナズナ野生型への重イオンビーム照射と全ゲノム変異解析:野生型の乾燥種子に低LETと至適LETでそれぞれ重イオンビームを300 Gy照射し、別個の照射当代8個体から次世代の植物体を育成し、ゲノムDNAを抽出した。これをリシーケンスし、変異解析パイプラインAMAPにより、変異の数・大きさ・種類を含めた変異スペクトラムを同定した。検出された欠失変異のうち、10 bpより大きいものは低LETと至適LETではそれぞれ18%と24%を占めた。また、修復箇所近傍の配列をテンプレートとして用いた挿入が検出されたものは低LETと至適LETでそれぞれ5%と11%を占めた。3) PolθとRPA1E抗体の作製:シロイヌナズナのPolθとRPA1Eのアミノ酸配列から抗原に適した部位を選定し、同じ配列のペプチドを合成した。合成ペプチドを抗原としてポリクローナル抗体を作製した。抗体評価のためシロイヌナズナの乾燥種子にX線を100 Gy照射し、吸水後4時間でタンパク質を抽出してウエスタンブロットを行った。貯蔵タンパク質と考えられる非特異的なバンドが得られたため、抗体評価方法の改良を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では大きく分けて2つの実験を行う。1) シロイヌナズナRPA1E遺伝子過剰発現変異体の作製と全ゲノム変異解析:(2020年度)2019年度に作製したRPA1E過剰発現変異体複数系統のうち、qPCRによってRPA1Eの発現が安定して高いものを選抜する。選抜した系統の乾燥種子に対して低LETと至適LETでそれぞれ重イオンビームを照射し、別個の照射当代9個体から次世代の種子を採取する。(2021年度)照射次世代の種子を播種し、ゲノムリシーケンスしてAMAPを用いて変異解析する。どちらのLETで照射したRPA1E過剰発現変異体の変異スペクトルにおいてもPolθによる修復跡が増加していることを確認する。2) 過剰RPAのDSB部位へのRAD51リクルート阻害能の測定:(2020年度)作製したシロイヌナズナのPolθとRPA1Eのペプチド抗体の評価を改良して行う。幼苗からのタンパク質抽出とウエスタンブロットを行う。シロイヌナズナ野生型の幼苗に対して低LETと至適LETそれぞれの条件で重イオンビームを照射する。照射後抗RPA1E抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行い、RPA1Eの結合したクロマチンを回収する。回収したクロマチンに対して抗Polθ抗体と抗RAD51抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ない、DNAに結合しているRAD51タンパク質とPolθタンパク質の量を比較する。過剰なRPA存在下でのRAD51タンパク質のDSB部位への結合が阻害され、その結果Polθタンパク質がより多く結合するという仮説が正しければ、至適LET照射区では低LET照射区と比べてPolθの量が多く、RAD51の量が少ないという結果が得られるはずである。(2021年度)RPA1E過剰発現変異体に対して2020年度と同様の実験を行なう。どちらのLET照射区でもPolθの量が多いと考えられる。
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Causes of Carryover |
2019年度に行ったゲノムリシーケンスの一部は内部予算で行ったゲノムシーケンスに相乗りするかたちで行ったため次年度使用額が生じた。低LETと至適LETの重イオンビームにより誘発される変異の特徴の差を明瞭にするため、2019年度に低LETと至適LETで重イオンビームを照射したシロイヌナズナの野生株のうち、表現型異常がみられる個体をスクリーニングしてさらにゲノムリシーケンスと全ゲノム変異解析を行う。
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