2019 Fiscal Year Research-status Report
ジョウジョウバエ腸管の恒常性における上皮バリアの役割の解明
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19K06650
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
泉 裕士 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 准教授 (10373268)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 上皮バリア / 細胞間接着装置 / ショウジョウバエ / 腸管恒常性 / 幹細胞 / セプテートジャンクション |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管上皮は異物、微生物を含む過酷な外界の環境に常に曝されており、疲弊した上皮細胞を脱落させるとともに、新たな上皮細胞を生み出しながらリニューアルを繰り返している。このような細胞の動的なターンオーバーの中で、腸管上皮の構造と機能が維持されるためには、上皮細胞の増殖が厳密にコントロールされる必要がある。しかしながら、上皮の恒常性の背景にある上皮細胞の増殖制御のメカニズムはいまだ不明な点が多い。これまでに私たちは、ショウジョウバエ腸管上皮の細胞間隙バリアとして機能するセプテートジャンクション(SJ)の構成分子群を同定し、これらを1つでも欠失させると、幼虫期に腸管の上皮バリア機能が破綻することを明らかにした。そこでこの実験系を成虫に適用し、腸管の上皮バリア機能の破綻がもたらす表現型を解析した。成虫の腸管では、幹細胞の増殖と分化による上皮細胞のターンオーバーが、その恒常性の維持に重要である。成虫において腸管特異的にSJ構成分子の欠損を誘導したところ、腸管バリアの破綻と共に、寿命の低下が観察された。興味深いことに、その腸管では幹細胞の異常分裂と上皮細胞の過剰増殖による腸肥大が起こっていた。さらに、この腸肥大には、サイトカインUnpairedが関与していることも明らかになった。つまり、上皮バリア機能の破綻により幹細胞の増殖が強く促進され、上皮細胞が腸管内で異常に蓄積するために腸機能不全が生じ、寿命低下に至ると考えられた。これらの結果は、ショウジョウバエ成虫の腸管において、上皮バリア機能が幹細胞の増殖・分化の制御を介して腸管の構築と機能の恒常性に寄与することを示している。この研究成果は‘Journal of Cell Science (2019) 132, pii: jcs232108’で掲載され、同号における注目論文として‘Research Highlight’で紹介された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ショウジョウバエ成虫の腸管上皮でsSJ構成分子 Ssk、Mesh、Tsp2Aの発現を抑制した結果起こる、腸管幹細胞と腸管上皮細胞の異常、腸肥大のメカニズムの解明のため、2019年度(1年目)は次の研究の実施を計画していた。 (1)異常増殖した腸管上皮細胞の形態学的解析 (2)幹細胞の過剰な増殖に関与する細胞内シグナル伝達経路の解析 (3)腸内細菌の影響の検証 (1)について、sSJ構成分子欠損によってもたらされた上皮細胞の極性形成異常を、細胞をDlg抗体など細胞極性マーカーにより標識し共焦点レーザー顕微鏡観察で明らかにし、さらに上皮細胞の形態異常を電子顕微鏡による超微形態の観察により明らかにした。(2)について、幹細胞の過剰な増殖にはRas-MAPキナーゼとJak-STAT経路の活性化が関わっていることを明らかにし、Jak-STAT経路の活性化を促進するリガンドであるUnpairedの腸肥大への関与を示した。(3)については、抗生物質含有餌での飼育でも幹細胞と上皮細胞の異常と腸肥大が起こることを示し、sSJタンパク質欠損による腸管の異常には、腸内細菌は関与していないことが示唆された。さらに、当初2,3年目に予定していた(4)正常腸管上皮内に誘導したsSJ構成分子欠損細胞クローンの解析も遂行した。MARCM法を利用して、正常腸管上皮細胞の集団の中にごく一部だけsSJ構成分子を失った細胞クローンの集団を出現させることに成功し、sSJ構成分子の欠損が細胞非自律的に近傍の幹細胞の増殖を誘導することを明らかにした。これらの成果は、 ‘Journal of Cell Science (2019) 132, pii: jcs232108.’で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
私はsSJ構成分子としてSsk、Mesh、Tsp2Aの他に、Hokaと命名した非常に短い細胞外ドメインを持つ新規の一回膜貫通型タンパク質を同定している。Hokaについてもショウジョウバエ幼虫の腸管sSJの形成に関わっていることを明らかにしており、2020年度はこの分子のショウジョウバエ成虫腸管での役割を解析し論文化を目指す。具体的には、hokaの成虫腸管特異的な欠損をRNAiにより誘導し、hoka欠損成虫の(1)腸管バリア機能の解析、(2)寿命の解析、(3)腸管幹細胞の増殖、上皮細胞の形態の解析、を進める。Ssk、Mesh、Tsp2Aの欠損と表現型の違いがあれば、Hokaとの機能の違いを引き起こす機構についても追求する。
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Causes of Carryover |
(理由)次年度使用額が生じた理由としては、当該年度は論文投稿及び論文のリビジョンに比較的多くの時間を割いたため実験量が減り、それに伴い消耗品の購入が当初の予定よりも減ったことが挙げられる。 (使用計画)次年度の使用計画としては、実験量を増やし消耗品の購入を増やすこと、学会の参加のための旅費に使用すること、などを計画している。
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