2020 Fiscal Year Research-status Report
ジョウジョウバエ腸管の恒常性における上皮バリアの役割の解明
Project/Area Number |
19K06650
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
泉 裕士 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 准教授 (10373268)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 上皮バリア / 細胞間接着装置 / ショウジョウバエ / 腸管恒常性 / 幹細胞 / セプテートジャンクション |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮は外界から体の内部を保護するバリアとしての重要な役割を担っている。しかし、上皮が効果的なバリアとして働くためには、上皮細胞の隙間の漏れを防ぐ必要がある。ショウジョウバエでは、セプテートジャンクション(以下SJ)という細胞間接着装置がその隙間を塞いでいる。私は、ショウジョウバエ消化管のSJであるsmooth SJ (sSJ)に注目し、その分子構築、形成機構、生理機能と共に、消化管恒常性維持における役割について解析を進めている。2020年度は、新規sSJ構成分子の1回膜貫通型タンパク質Hokaの機能解析を進めた。Hokaを欠失したショウジョウバエは消化管上皮のSJが正常に形成されず幼虫期で発生が止まることが分かった。また、Hokaは他のsSJ構成分子Ssk, Mesh, Tsp2Aと分子複合体を形成し、協調してSJの形成に関わることが明らかになった。次に、ショウジョウバエ成虫の消化管恒常性の維持におけるHokaの役割を解析した。成虫で消化管のHokaの発現を抑制すると、上皮バリア機能が低下し、個体が短命になった。そして、その消化管では幹細胞の著しい増殖亢進と上皮細胞の腫瘍化が観察された。興味深いことに、そのような消化管の上皮細胞では、細胞極性を制御することで知られているaPKC (atypical protein kinace C)の発現が大きく上昇していることが分かった。そこで、Hokaの発現を抑制した消化管でさらにaPKCの発現を抑制したところ、幹細胞の増殖が低下することが分かった。これらの結果より、Hokaはショウジョウバエ消化管においてaPKCの活性を制御し、幹細胞の増殖をコントロールしていることが明らかになった。この研究成果はJournal of Cell Science (2021) 134 (6), DOI: 10.1242/jcs.257022で掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度(2年目)は、Hokaと命名した新規の1回膜貫通型sSJ構成タンパク質について、ショウジョウバエ成虫腸管での役割を解析し論文化を目指した。具体的には、hokaの成虫腸管特異的な欠失をRNAiにより誘導し、hoka欠失成虫の(1)腸管バリア機能の解析、(2)寿命の解析、(3)腸幹細胞の増殖、 上皮細胞の形態の解析、を予定した。(1)について、成虫に青色色素を食べさせ、その色素が腸外に漏れたか否かで腸管バリア機能を判定するSmurfアッセイにより、hoka欠失成虫は腸管バリア機能が低下していることを明らかにした。(2)について、hoka欠失成虫は野生型に比べ短命であることが分かった。(3)について、hoka欠失成虫の腸管では、幹細胞の増殖が亢進し、上皮細胞が腫瘍化していることが観察された。さらに、その腸管の上皮細胞では、細胞極性を制御することで知られるaPKC (atypical protein kinace C)の発現が大きく上昇していることが分かった。aPKCの発現をhoka欠失腸管で抑制すると幹細胞の増殖亢進が低下したことから、hoka欠失成虫ではaPKC活性化が起こっており、これが幹細胞の増殖亢進の引き金の1つになっていることが分かった。この研究成果はJournal of Cell Science (2021) 134 (6),DOI: 10.1242/jcs.257022で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果により、ショウジョウバエ成虫の腸管上皮でsSJ構成分子 Ssk、Mesh、Tsp2A, Hokaの発現をRNAiにより抑制しsSJの機能低下を誘導すると、腸幹細胞の増殖亢進と腸管上皮細胞の腫瘍化が起こることを明らかにした。さらに、その腸幹細胞の増殖亢進にはaPKC, Yki, IL6様サイトカインのUpdといったシグナル伝達因子が関わっていることも明らかにした。今後は、sSJの機能低下からaPKC, Yki, Updを介した幹細胞増殖亢進のメカニズムをさらに追求するために、次の解析を進める。(1)ショウジョウバエ成虫期の腸管特異的なmesh-RNAi(SJ分子RNAi)発現系統を作成:腸管特異的にRNAi発現を誘導できるmyo1A-GAL4によりUAS-mesh-RNAiが飼育温度のシフト(18℃→29℃)により誘導できる系統を作成(myo1A-GAL4ts, UAS-mesh-RNAi系統)。この系統と対象のRNAi系統を掛け合わせることにより、そのRNAiがmesh-RNAiの表現型(幹細胞分裂、腫瘍形成)に影響するか否かを比較的容易に判別できる。(2) aPKC, Yki, Updを介したシグナル経路に関連する因子のRNAi系統を(1)のラインと掛け合わせ、幹細胞増殖亢進に対する影響を解析する。(3)mesh-RNAiにより発現が上昇する因子を複数同定しているので、それらの因子のRNAi系統を(1)のラインと掛け合わせ、幹細胞増殖亢進に対する影響を解析する。(4) (2), (3)の解析で得た候補因子に関して、機能解析を進める。特に幹細胞増殖を誘導するシグナル経路の中のどこで機能するかに注目する。
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Causes of Carryover |
(理由)次年度使用額が生じた理由としては、コロナ禍により研究が制限された時期があり、それに伴い消耗品の購入が当初の予定よりも減ったことが挙げられる。また、参加した学会がオンラインに切り替えられ、旅費の使用が無かったことが挙げられる。 (使用計画)次年度の使用計画としては、実験量を増やし消耗品の購入を増やすことなどを計画している。 また、次年度はストックセンターからのショウジョウバエ購入が増加する予定である。
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