2020 Fiscal Year Research-status Report
高濃度ATPが変性タンパク質の蓄積を抑制する仕組みの解明
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19K06654
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
高稲 正勝 群馬大学, 未来先端研究機構, 助教 (20573215)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ATP / タンパク質凝集 / AMPK / エネルギー代謝 / 神経変性疾患 / 酵母 / プリン |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内エネルギー代謝を理解するためにはATP濃度制御機構の解明が不可欠であるが、真核細胞内のATP動態の詳細は未だ不明であった。申請者はATPセンサーを使用して一細胞レベルでATP濃度を観測し、ATP濃度が常に高濃度に保たれているのを発見した(ATP恒常性)。またAMPキナーゼやアデニレートキナーゼの変異株細胞ではATP恒常性の破綻によりATP濃度が大きく変動し、細胞毒性を持つ変性タンパク質凝集体が蓄積していた。そこで本研究では細胞内高濃度ATPによって異常なタンパク質凝集体の蓄積が抑制される仕組みを解析する。令和2年度に実施した研究の成果は以下の通りである: (1)質量分析による細胞内プリンヌクレオチド量の定量 これまでの研究成果を論文として投稿したところ、査読者から「バイオセンサーによる計測で観察された、ATP恒常性変異株におけるATP濃度低下を別の手法を用いて確認するべき」という指摘をもらった。そこで当該変異株と野生株細胞内のATPを含むプリンヌクレオチド量の質量分析による定量を試みた。申請者は細胞抽出液を調製し、その後の質量分析は群馬大学共同利用機器部門に受託した。抽出液調製法や測定メソッドの条件検討を複数回行ったが、結果として定量性のあるプリンヌクレオチド量の測定はできなかった。質量分析のサンプルをロードする流路に使用されているステンレス製の配管とプリンヌクレオチドのリン酸基が相互作用してしまうことが原因だと考えられた。 (2)ルシフェラーゼ法による細胞内ATPおよびADP量の定量 (1)の質量分析による測定の次善策として、ルシフェラーゼの発光反応を利用した測定法によりATPおよびADPを定量した。野生株と比較してATP恒常性異常変異株では細胞内ATPとADPの量が共に減少していた。ATP量の減少の程度はATPバイオセンサーによる計測結果と概ね一致しており、変異株におけるATP濃度低下を裏付ける結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究課題の目的は、申請者が発見した真核細胞における細胞内ATP濃度維持機構の解明と、その破綻が異常なタンパク質の凝集を誘導する仕組みを明らかにすることである。 現在までに細胞内ATP濃度が低下したり、不安定になる変異株(ATP変異株)を複数株同定している。またそのようなATP変異株では異常なタンパク質凝集体が蓄積しやすいことも見出している。今年度のATPおよびADP量の生化学的定量から、バイオセンサーによる計測で確認されたATP変異株におけるATP濃度低下が裏付けられ、観察結果の信頼性が補強された。これまでに得られた結果を新規論文としてまとめて国際誌に投稿したところ、追加実験と原稿の改定を要求されたため現在は対応する実験を行っている。よって現在までに得られた研究成果は本研究課題の研究目的に則して、概ね順調な達成度であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに細胞内ATP濃度低下により酵母の内在性タンパク質およびヒトの病気の原因となるようなタンパク質が凝集し、細胞毒性を誘起することを示唆する結果が得られている。すでにこれまでの研究成果を論文としてまとめて国際誌に投稿し、追加実験と原稿の改定を要求されている段階である。したがって今年度は要求された追加実験と原稿修正に注力し、論文の速やかな採択を目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大防止策として在宅勤務が推奨されたため、研究活動を縮小せざるを得なかった。また学会や研究会が全てオンライン化され、学会参加費として計上していた旅費を使用しなかったため次年度に繰り越した。繰越し分は2021年度分予算と合わせて質量分析の受託費用や試薬購入に充てる予定である。
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