2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K06671
|
Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
猪子 誠人 愛知医科大学, 医学部, 講師 (30393127)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 上皮分化 / 上皮幹細胞 / カルシウム / アクチン / ケラチン |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮の機能、特に生体内の恒常性に関わるバリア機能については、上皮の細胞生物学により分子理解が大きく進んだ。その一方で、「これまで単層と思われていた生体上皮が実は分化度の異なる階層から構築されている」ことはあまり認知が進んでいない。これは、上皮組織再生技術や上皮性疾患理解などの生体応用面では、未だ障壁となる。これには、上皮幹細胞の培養が簡単ではなかったという背景がある。 しかし最近は、分化シグナルを阻害する化合物により、上皮幹細胞様の細胞が培養増殖可能になりつつある(Mou Hら, Cell Stem Cell. 2016;19:217-231他)。これら原法の改変で、報告者は二種類の上皮分化法を培養皿上で確立した(投稿準備中)。一つは単層上皮の形成、もう一つは、生体内のような二階層上皮の形成で分化した上層の下に未分化な下層を持つ。 本研究では、報告者が新規開発した複数の分化培養技術を元に、「正常上皮組織はいかに階層分化するか」について分子レベルでの初めての理解を目指す。そのために以下のような遺伝子発現解析や遺伝子工学による細胞生物学的解析を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は以下の実験を行った。まず報告者は実験を簡素化するため、単層状態での①分化前、②分化中、③分化後の3つの細胞集団を乳腺及び前立腺の幹細胞様細胞に分化阻害剤を適用することで作り出した。これらの遺伝子・タンパク質の発現比較解析を行ったところ、それぞれの状態に特徴的な現象・遺伝子を発見した。具体的には、①未分化上皮に腸や乳腺幹細胞で既報のあるAxin2や一意のイオンチャネルが特異的に発現すること、②上皮分化過程にアクトミオシンによる一過性の細胞収縮後に起こること、またその際に細胞内Ca濃度の上昇と一意のインターロイキンおよびヘパラン硫酸修飾酵素の上昇を認めた。③また分化後にClaudin4の特異的発現上昇を確認し、全体として分化実験の正当性を担保することができた。 なかでも分化過程に細胞収縮が影響することは、重層扁平上皮や脂肪細胞の既報はあるが、前立腺・乳腺といった腺上皮で再現されたのは初めてである。特に一意のインターロイキンおよびヘパラン硫酸の発現相関は、分化過程にニッチ要素および局所のサイトカインが重要であることを強く示唆しており、培養系の利点を活かした緻密な解析が期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はこれらを含む特徴的な遺伝子・現象について遺伝子導入あるいは遺伝子欠失実験(ゲノム編集)により分子責任の確認を行う。また補完的にパスウェイ解析や電顕解析を追加する。特にAxin2についてはどのWntと現象相関があるか培養系の利点を活かして追究する。分化過程とイオンの相関について、その示唆はあるものの全く未開拓の課題であり、電位プローブを用いた観察やイオノフォアを用いた現象介入実験を行う。同時に報告者は分化・未分化状態で特殊なケラチンサブタイプの発現上昇を新たに認めており、細胞現象の足場となる細胞骨格蛋白質として新規機能の解明が期待できる。 最終的に、2階層分化培養の結果と総合しながら、「上皮組織はいかに階層化するか?」という分子レベルでの解を出し、今後再生医療・病理診断などへの成果還元を目指す。
|
Causes of Carryover |
実験が順調に進んだため、次年度使用額が生じた。来年度はその分を、細胞解析の充実に必要な遺伝子解析費用やsiRNA、抗体の購入に充てる。
|
Research Products
(8 results)