2021 Fiscal Year Research-status Report
「分化の波」の進行を制御する複数シグナルの相互作用の理解
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19K06674
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
八杉 徹雄 金沢大学, 新学術創成研究機構, 准教授 (90508110)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 分化の波 / 数理モデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
様々な生命現象は多様なシグナル経路の複雑な相互フィードバックにより制御される。これまで、個々のシグナル経路の動作機構の理解が進んできたが、多細胞系において複雑なシグナル間相互作用を正確に記述することは困難であった。本研究では、シグナル間相互作用を包括的に理解するモデルとして、ショウジョウバエ視覚中枢の発生に着目している。幼虫期の視覚中枢では、「分化の波」の一方向的な進行に伴って神経上皮細胞から神経幹細胞への分化が起こる。本研究では、数理生物学的手法と実験生物学的手法を融合することにより、「分化の波」の進行を制御する複数シグナルの相互作用の包括的な理解を目指している。これまで私たちが「分化の波」の進行を制御することを報告したEGF、Notch、JAK/STATシグナルに加え、インスリン、TOR、Wntシグナルに着目し、シグナル間相互作用の解明に取り組んでいる。2021年度は視覚中枢の発生において前後方向のアイデンティティを決定するWntシグナルに着目し、「分化の波」の進行における機能を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
視覚中枢においてWntシグナルは後方においてのみ活性化され、前後方向のアイデンティティを決定する。視覚中枢の前側においてWntシグナルを異所的に活性化したところ、Wntシグナル活性化領域では「分化の波」の進行が阻害された。さらに、WntシグナルがEGFシグナルやNotchシグナルの活性を制御することがわかった。これらの実験結果をもとにシミュレーションを行ったところ、WntシグナルがEGFリガンドの局在を制御することによって「分化の波」の進行を制御する可能性が示唆された。この数理モデルの予測を生体内で検証する実験を行い、シミュレーション結果を再現する結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでWntシグナルを視覚中枢の前方で異所的に活性化される実験によりWntシグナルの作用を明らかにしてきたが、今後は視覚中枢の後方においてWntシグナルを阻害した条件下での「分化の波」の進行と各シグナル経路の活性を調べる。その上で、WntシグナルがEGFリガンドの局在を制御する機構について分子遺伝学的、生化学的に解析を進める。WntシグナルがEGF受容体の発現や局在を制御する可能性、あるいはEGFリガンドとEGF受容体の結合能を制御する可能性を考え、それらを検証する実験を実施する。 これらの研究を通して、複数シグナル経路の相互作用の全体像を明らかにし、「分化の波」の進行を制御する複数シグナルの相互作用の包括的な理解を目指す。
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Causes of Carryover |
「WntシグナルによるEGFリガンドの局在制御」は実験開始時には想定されていなかった現象であるが、その機構の解明は「分化の波」の進行の理解に必須である。上記の実験を遂行するために、ショウジョウバエの維持に必要な消耗品、分子生物学試薬、組織染色用試薬を購入する予定である。
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Research Products
(3 results)