2019 Fiscal Year Research-status Report
造血幹細胞ニッチの遺伝子発現ネットワークの構築および維持機構の解明
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19K06688
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
尾松 芳樹 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80437277)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ニッチ / 造血幹細胞 / 骨髄 / CAR細胞 / Foxc1 |
Outline of Annual Research Achievements |
造血の恒常性は骨髄に存在するニッチと呼ばれる特殊な微小環境によって精緻に制御されている。申請者らのこれまでの研究により、ケモカインCXCL12を高発現する細網細胞(CAR細胞)が、造血幹細胞・前駆細胞ニッチの中心的な構成細胞であることが示された。CAR細胞の形成と維持に必須の転写因子としてFoxc1およびEbf3/1が同定され、CAR細胞は成体で自己複製し骨芽細胞と脂肪細胞を供給する間葉系幹細胞であることも明らかになった。Foxc1はCAR細胞の脂肪細胞への分化を抑制し、Ebf3/1は骨芽細胞への分化を抑制することでそれぞれがCAR細胞のニッチとしての特性を維持していると考えられるが、CAR細胞の発生誘導および機能維持における分子機構の多くは未だに不明である。 そこで胎児期の胎児期の軟骨膜の周囲に出現するosterix(Osx)陽性の間葉系細胞および軟骨原基に侵入する血管内皮細胞に着目して遺伝子発現を比較解析し、CAR細胞特異的遺伝子発現の誘導に重要と考えられるシグナル経路および転写機構の候補をいくつか同定した。現在それらの機能解析のためにコンディショナルノックアウトマウスの作製に着手している。 さらにCAR細胞の成体での維持および再生におけるFoxc1の機能を明らかにするために、Creリコンビナーゼが作用するとFoxc1が発現誘導されるマウスを作製した。種々の造血不全を伴う疾患モデルにおいてCAR細胞のFoxc1の発現低下が認められるが、このマウスを用いることでそれが抑制できると期待される。そこでこのマウスを用いて種々の疾患モデルにおける造血の変化を解析し、骨髄環境の障害および再生におけるFoxc1の役割の解明を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CAR細胞の発生メカニズムを明らかにするために、まずは胎児期の軟骨膜の周囲に出現する転写因子osterix(Osx)陽性の間葉系細胞の分類を試みた。具体的には、Osx-GFPレポータマウスを用いてOsx陽性細胞が軟骨膜にのみ存在する時期(E14.5)および軟骨中央部に侵入した後の時期(E16.5)の四肢より細胞を採取し、フローサイトメータにより解析を行った。E16.5ではOsx-GFP陽性細胞がPDGFRβの発現によって亜集団に分けられたことから、ソーティングを行い次世代シーケンスによってそれぞれの遺伝子発現を比較した。その結果、Osx-GFP陽性PDGFRβ強陽性細胞分画でFoxc1の発現が有意に高くCAR細胞前駆細胞であると考えられた。そこで他の分画との比較解析を行いCAR細胞特異的遺伝子の発現を促す可能性のあるシグナル経路および転写制御分子の候補を得た。さらに胎児期の軟骨原基へ侵入した血管内皮細胞(EC)に骨髄を誘導・構築する特別な機能がある可能性が考えられたので、このECを他と区別して分取するのに適したマーカーの探索を行い、これを用いてソーティングを行った。そして軟骨原基に侵入したECとその他のECを比較することで骨髄の間葉系細胞に作用する可能性のあるシグナル分子の候補を得た。以上のようにして得られた候補遺伝子について、in vitroで生理的機能の検討を行うだけでなくin vivo機能解析のためにfloxマウスの作製に着手した。 さらにCAR細胞の成体での維持および再生におけるFoxc1の機能を明らかにするために、Creリコンビナーゼが作用するとFoxc1が強制発現誘導されるマウスを作製した。実際にいくつかのCreマウスとの交配を行い、導入したFoxc1遺伝子が実際に発現することが確認されたので、今後種々の疾患モデルにおける造血の変化の解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた候補遺伝子のうちいくつかについてはすでに遺伝子改変マウスの作製に着手している。しかしその他の重要な遺伝子が見逃されている可能性も考えられる。近年急速に発達してきたシングルセルレベルでの遺伝子発現解析および細胞集団のコンピュータ解析によって、従来の手法では見いだされなかった重要かつ少数の細胞集団や遺伝子の同定が行われてきている。そこで胎児期の四肢に存在するおよそ全ての細胞を対象として網羅的にシングルセル解析を行うことで、造血幹細胞ニッチの発生における新たな分子基盤の同定が期待される。しかしながら、ある程度細胞の種類を限定しないと目的の細胞が十分含まれないため非常に多数の細胞の解析が必要となる。そこでまずは全ての間葉系細胞のみを対象としたシングルセル次世代シーケンス解析を行う。具体的には四肢の間葉系細胞をラベルできるPrx1CreマウスとCreの蛍光レポータマウスを交配したマウスを用い、胎児の四肢の間葉系細胞をソーティングし解析する。胎齢14.5日から出生直前まで時期を変えて同様の解析を行い、より詳細なCAR細胞の分化経路、運命決定の分岐点(時期)、鍵となるイベント(シグナル分子)の同定を試みる。次に血管内皮細胞および血球系列をラベルできるTie2Creマウスと蛍光レポータマウスを交配したマウスを用い同様の解析を実施し、骨髄およびCAR細胞の発生における血管内皮細胞や血液細胞の役割を明らかにする。 一方、CAR細胞の成体でのニッチ機能の維持および再生機構の解明も重要な問題である。これまでの解析で種々の疾患モデルにおいてCAR細胞はFoxc1の発現低下を伴って変質することが明らかになったため、今回作製したFoxc1を細胞特異的に強制発現できるマウスを用いてCAR細胞の変質の有無や造血の回復が早まるか否かを解析する。
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