2019 Fiscal Year Research-status Report
茎頂メリステムにおけるフロリゲン輸送と内部環境変動の分子的理解
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19K06703
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 光知 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20343238)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 花成 / フロリゲン / FT / FD |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は、多様な環境情報を用いて成長や繁殖を行なっている。花を咲かせるホルモン・フロリゲン(FTタンパク質)は、花を咲かせる環境下の葉で作られる。その後、フロリゲンは葉から茎頂メリステムへと運ばれ、機能的パートナーであるFDと転写複合体を形成する。その結果、環境依存的な花芽形成が開始されることになる。FTを中心としたフロリゲン機能の大枠が明らかになった現在、次なる課題として「FTタンパク質の積み降ろし」や、「茎頂メリステム内部の細胞間輸送」をはじめとするFT機能制御の素過程に関する詳細な理解が求められている。 本研究課題では、「FT自身」とFT輸送の場である「茎頂メリステムの内部環境」の双方に注目し、フロリゲンの輸送機構の理解を目指す。そのために、独自に改良を加えた in vivo でのフロリゲン複合体(FT-FD複合体)可視化手法を活用し、細胞間輸送に重要なFTのアミノ酸配列を探索・同定する。また、「茎頂メリステム内部環境の理解」に向けて、フロリゲン輸送の鍵を握ると考えられる原形質連絡に注目し、原形質連絡機能のFT輸送への関与、ならびに花成誘導環境下における原形質連絡動態を検証する。具体的には【研究項目1】メリステム内の細胞間輸送に重要なFTアミノ酸配列の探索と同定、【研究項目2】メリステム内FT輸送への原形質連絡機能の関与の検証、【研究項目3】メリステムで形成されるFT-FD複合体の動態理解に取り組む。その結果、メリステムにおけるFTの細胞間輸送機構の一端を分子的に解き明かすことを目指していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、「フロリゲン」とフロリゲン輸送の場である「茎頂メリステムの内部環境」の双方に注目し、フロリゲンの細胞間輸送の仕組みを独自のin vivo可視化手法(iBiFC法)を用いて解き明かす。申請者が活用する iBiFC法は、これまでタグの付加によって生じていたFTの輸送機能阻害という問題点を克服した実験手法であり(Abe et al., Development, 2019)、篩部から茎頂メリステム内部までのFT輸送をありのままに評価することが可能である。 令和元年度は、主に【研究項目1: メリステム内の細胞間輸送に重要なFTアミノ酸配列の探索と同定】に取り組み、注目したFT配列のうち、新たに3つのアミノ酸がFTの細胞間輸送に必須であることを発見した。また、【研究項目2: メリステム内FT輸送への原形質連絡機能の関与の検証】に関しては、原形質連絡を介したFT輸送制御の鍵因子であるFTIP1とそのホモログ遺伝子をクローニングし、次年度以降の解析に向けての準備を整えた。【研究項目3: メリステムで形成されるFT-FD複合体の動態理解】に関しては、FD遺伝子発現の詳細な経時的観察によって、FT-FD複合体が相転換後に消失する原因がFD遺伝子の発現変化に起因することを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、学内異動に伴う研究室のセットアップに多くの時間を必要とした。研究環境が整備された令和2年度以降、研究をより活性化していく。 令和2年度は、【研究項目1: メリステム内の細胞間輸送に重要なFTアミノ酸配列の探索と同定】および【研究項目2: メリステム内FT輸送への原形質連絡機能の関与の検証】を中心に研究を進める。【研究項目1】に関しては、これまでに同定した細胞間輸送に重要なFTアミノ酸配列に注目し、変異型FTが細胞間移行に欠損を生じる原因を探索する。具体的には、【研究項目2】でフォーカスを当てているFTIP1ファミリーとの連関を明らかにすることによって、野生型FTタンパク質における細胞間移行のメカニズムの理解に迫る計画である。また、FTIP1ファミリー遺伝子に関しては、マーカー植物を作出し、茎頂メリステム内部における原形質連絡局在性を検討することも計画している。さらに、今年度中に原形質連絡機能を人為的に変動させるシステム(iCALSシステム)を導入し、FT輸送と原形質連絡機能との連関を解明する足がかりとする計画である。
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Causes of Carryover |
研究代表者は、2019年4月1日付で東京大学大学院理学系研究科より大学院総合文化研究科へと異動した。その結果、年度当初に研究室のセットアップの時間を必要とし、消耗品の使用額が当初予定に比べて抑えられたことが、次年度使用額が発生した主要因である。2020年度は、コロナ禍によって研究の開始が遅れているが、研究室員も増加したこともあり、順調に消費可能である。
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