2021 Fiscal Year Research-status Report
接触感知・細胞同調・収縮運動:三役を一つでこなすオジギソウの新規遺伝子メカニズム
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19K06715
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
真野 弘明 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 特任助教 (80376558)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オジギソウ / 運動 / チャネル / 電気生理学 / トランスジェニック / 蛍光タンパク質 / 転写因子 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、オジギソウの高速運動において運動器官である葉枕内でどのような遺伝子が機能しているのかを明らかにすることを目指す。これまでの研究により、機械刺激受容チャネルMSL10、グルタミン酸受容体様チャネルGLR3、および転写因子であるASLBDの変異体がおじぎ運動に異常を示すことを見出した。GLR3の変異体では運動時に起こる細胞間の高速同調が損なわれることから、このチャネルが高速同調のメカニズムに関与していることが示唆された。この高速同調シグナルの実体が従来提唱されているような活動電位様の電気シグナルなのか、あるいはGLR3の分子機能から予想されるようなアミノ酸リガンドを介した化学シグナルなのか、もしくはこれらのどちらとも異なるメカニズムが関与しているのか、は本研究における最重要の未解明課題である。本年度はこれ明らかにするために、アフリカツメガエル卵母細胞および二電極法を用いたGLR3チャネルの活性の解析を行った。1年間にわたり投与するリガンドの種類や用いるバッファーの種類、複合体のパートナーとなりうる他のGLR3ホモログやCNIHとの共発現等の条件を検討したが、オジギソウGLR3チャネルに関しては活性が得られなかった。ポジティブコントロールとして用いたシロイヌナズナAtGLR1.4チャネルではアミノ酸リガンドに対する反応が明瞭に検出できたことから、期待した結果が得られない原因はオジギソウGLR3チャネルに特有の問題と考えられた。これらの実験と並行して、ASLBDの変異体に関して、野生型との間で運動器官におけるトランスクリプトーム比較解析を行った。その結果、MSL10、GLR3の両遺伝子がASLOB下流の差示的発現遺伝子として検出され、さらにレドックスシグナル関連遺伝子等を含むターゲット遺伝子群を新たに同定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
電気生理学実験でGLR3チャネルの活性が得られなかったのは予想外であり、実験の進展は遅れている。当該実験は本研究における最重要な問いに直結するものであるため、条件検討等においてはかなりしつこく粘ってみたものの、残念ながら結果にはつながらなかった。タンパク質の発現量や細胞表面への局在に関しては確認実験を行ったところ問題がなく、ポジティブコントロールの実験結果等もあわせて考えると、原因はタンパク質の不適切なフォールディングや翻訳後修飾、あるいは未同定のコファクターを欠いている等の対処困難な問題に起因する可能性が高い。以上のことから、GLR3チャネルの活性測定には実験系をアフリカツメガエル卵母細胞以外のものに変えることが必要であると考えられ、これが本年度の研究を通して得られた進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
GLR3チャネルに関しては、Ca2+センサータンパク質を導入したオジギソウの葉枕を摘出しそこへリガンド候補を投与して反応を見るin vivo実験、等温滴定カロリメトリー法を用いたリガンド結合の直接検出、あるいは動物培養細胞とパッチクランプ法を用いた電気生理学解析等の方法にチャレンジし、その活性化のメカニズムを明らかにしたい。並行して、これまでに得られたMSL10およびGLR3の各種実験データのブラッシュアップを行い、論文発表を行う。ASLBD遺伝子に関しては、トランスクリプトーム解析で得られた新規候補遺伝子に関して順次CRISPR/Cas9による遺伝子破壊系統を作出し、その表現型を解析する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、電気生理学実験の進展の遅れにより実験計画に変更が生じたこと、およびトランスクリプトーム実験の遂行が現有の物品や機器でまかなえたため経費を節約できた点があげられる。最終年度となる来年度はこれらの繰越額を活用し、実験をよりスムーズに進められるよう取り計らいたい。
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