2019 Fiscal Year Research-status Report
シアノバクテリアのパートナースイッチング制御系による環境応答機構の解明
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19K06717
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
日原 由香子 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60323375)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / シアノバクテリア / 順化応答 / PmgA / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803 (S.6803)においては、パートナースイッチング制御系のアンチσ因子と相同性を持つPmgAタンパク質が、強光下や光混合栄養条件下での生存に必須である。本研究では、PmgAのリン酸化標的として、パートナースイッチング制御系のアンタゴニスト様タンパク質Ssr1600を同定したことから、「パートナースイッチング制御系はいかにして、シアノバクテリアの光合成や代謝を制御しているのか?」の解明を目指している。当該年度は、S.6803の強光順化応答へのPmgAとSsr1600の関与を調べるため、以下の解析を行った。①野生株およびpmgA破壊株を強光下に移した後の、Ssr1600の存在量および存在状態の変化を調べ、Ssr1600が強光下で一旦減少してその後増加するという、細胞当たりクロロフィル量と同様な増減パターンを示すことを見出した。また、pmgA破壊株ではSsr1600が検出されなかったことから、脱リン酸化型のSsr1600が不安定化し分解する可能性を見出した。②野生株およびpmgAとssr1600の各種変異株の強光順化応答を比較解析し、ssr1600破壊株がクロロフィル量の増減に関して、野生株とpmgA破壊株の中間的な挙動を示すことを見出した。③バクテリアtwo-hybrid法(大腸菌BACTH system)を用いてPmgAとSsr1600の相互作用の検出に成功した。今後、Ssr1600以外のアンタゴニストオルソログとPmgAの相互作用解析や、Ssr1600とホスファターゼオルソログとの相互作用解析を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①野生株では強光下でSsr1600タンパク質量が変動すること、pmgA破壊株ではssr1600転写産物は発現するがタンパク質レベルでは蓄積しないことを見出した。これらの結果より、野生株ではPmgAによるSsr1600のリン酸化レベルが強光下で低下することによりSsr1600が不安定化して蓄積量が減少するという調節機構が予想される。今後、Phos-tag PAGEによるSsr1600のリン酸化状態の検出系を確立し、野生株におけるリン酸化Ssr1600量の変動を調べる必要がある。②野生株、pmgA破壊株、ssr1600破壊株、pmgA破壊株に対して野生型pmgA遺伝子を発現させた相補株、およびキナーゼ活性部位に変異を導入したN56A型pmgA遺伝子を発現させた株について表現型解析を行った。ssr1600破壊株については、強光下で色素量を低く保つ野生株と、強光下10時間前後で色素量の回復が見られるpmgA破壊株の中間的な表現型を示すことを見出したが、pmgA破壊株に対して野生型pmgA遺伝子を発現させた相補株では、pmgA転写産物の発現は確認されたものの、Ssr1600の蓄積はpmgA破壊株同様に検出されないままであった。pmgA相補株においてなぜSsr1600の蓄積が観察されないのか、今後検討の必要がある。③大腸菌BACTH system のC末融合系を用いた場合に、2種の相互作用検出用ベクターのどちらにPmgAとSsr1600をクローニングしても強い相互作用を検出することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
PmgAのリン酸化活性によりSsr1600の存在量が調節されていることを示唆する結果が得られたが、実際にSsr1600のリン酸化レベルがどのように変化しているのか、Ssr1600の存在量あるいはリン酸化レベルにより直接的に制御されている標的は何であるか等、今後解明すべき事柄は多い。そのためにはまずPhos-tag PAGEによるSsr1600のリン酸化状態の検出系を確立することが重要である。また、これまではSsr1600とそのキナーゼであるPmgAに焦点を絞って研究を行ってきたが、今後はSsr1600のホスファターゼも解析対象とすることで、キナーゼとホスファターゼの活性変動により、Ssr1600の存在状態と強光順化応答の表現型がどのように影響を受けるか、解析を行っていきたいと考えている。また、これまでに大腸菌BACTH systemを用いてPmgAとSsr1600の相互作用検出に成功したので、今後はSsr1600以外のアンタゴニストオルソログとPmgAの相互作用、Ssr1600とホスファターゼオルソログとの相互作用等を検討することで、S.6803のパートナースイッチング制御系の構成因子間の関係性や、その制御系が働く環境条件と、その条件下での生理的役割の解明を目指したい。
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Causes of Carryover |
今年度中に、pmgA破壊株に対して野生型pmgA遺伝子を発現させた相補株、およびN56A型pmgAを発現させた変異株を作製し、その解析を進める予定であったが、作製した相補株においてpmgA転写産物の発現は確認されたものの、Ssr1600の蓄積はpmgA破壊株同様に検出されない、という結果が得られたため、これらの株セットを用いた解析に進むことができず、次年度使用額が生じた。次年度は、相補株の再構築を行うなどの検討を進め、今年度遂行することができなかったpmgAのキナーゼ部位変異株の解析を行うために、次年度使用額を用いたいと考えている。
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