2021 Fiscal Year Research-status Report
シアノバクテリアのパートナースイッチング制御系による環境応答機構の解明
Project/Area Number |
19K06717
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
日原 由香子 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60323375)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / 強光順化応答 / パートナースイッチング制御系 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803 (S.6803)においては、パートナースイッチング制御系のアンチσ因子と相同性を持つPmgAタンパク質が、強光下や光混合栄養条件下での生存に必須である。本研究では、PmgAのリン酸化標的として、パートナースイッチング制御系のアンタゴニスト様タンパク質Ssr1600を同定したことから、「パートナースイッチング制御系はいかにして、シアノバクテリアの光合成や代謝を制御しているのか?」の解明を目指している。当該年度は、pmgAおよびssr1600を恒常的高発現プロモーターPtrcに接続し、ゲノム中のニュートラルサイトに導入することで過剰発現株を作製し、遺伝子破壊株、野生株とともに表現型解析を行った。pmgA過剰発現株では、ssr1600転写産物量は野生株と同レベルであるが、Ssr1600タンパク質は野生株の2倍ほど蓄積していたことから、pmgA破壊株でSsr1600が蓄積しないという観察結果と合わせ、PmgAがSsr1600量を制御することが強く示唆された。強光下での細胞当たりクロロフィル量は、いずれの株も6時間以内に半減するが、その後の再蓄積の速度が野生株に比べ、pmgA過剰発現株では遅れ、破壊株では速かった。一方、ssr1600の過剰発現・遺伝子破壊株ではクロロフィル量への影響は顕著には観察されなかった。同様に、強光下での光合成関連遺伝子転写産物量も、pmgA発現量の増減によって影響を受けるが、ssr1600の増減による影響は僅かであった。以上の結果から、PmgAは強光順化応答に重要な役割を担うが、Ssr1600との相互作用はその調節に必須ではない可能性が示唆された。今後、Ssr1600が強光順化応答に果たす役割についてさらに検討を続ける必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにPmgAとSsr1600について、in vitroでの相互作用解析、および過剰発現株と破壊株の表現型解析を遂行することができたが、PmgAのキナーゼ活性変異株セットの作製に成功していないこと、および作製した破壊株・過剰発現株セットについてSsr1600のリン酸化状態を検出できていないことから、未だ、in vivoにおいてPmgAによるSsr1600のリン酸化を示せていない。両者がS.6803細胞内でパートナースイッチング制御系を構成しているのかどうかを検証するために、今後、上記の問題を解決することが急務である。PmgAのキナーゼ活性変異株セットについては、遺伝子導入には成功しているもののコントロールの相補株において表現型の回復が見られていないことから、再度株セットの作製を行う必要がある。リン酸化状態の検出においては、Phos-tag SDS-PAGEと二次元電気泳動の検討を行っており、後者においてSsr1600と考えられる4スポットを検出している。二次元電気泳動の系を用いて、様々な環境条件下の野生株・遺伝子破壊株・過剰発現株についてSsr1600の修飾状態を検出することが、今後の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の成果として、S.6803においてパートナースイッチング制御系の構成因子がクロストークしている可能性を新たに示すことができた。今後はPmgAとSsr1600の関係性に限定せず、S.6803が持つ2種のアンチσ様因子と4種のアンタゴニスト様因子、および3種のホスファターゼ様因子の遺伝子破壊株・過剰発現株セットを揃え、解析を進めていきたい。具体的には、Ssr1600以外の3種のアンタゴニスト様因子について特異抗体を作製し、様々な環境条件下の変異株セットにおける発現量を解析する。その上で各株の表現型解析を行い、どのアンチσ因子およびホスファターゼがどのアンタゴニストの蓄積量・リン酸化状態に影響を及ぼすのか、さらにその変化が表現型にどのような影響を及ぼすのか解析していきたい。
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Causes of Carryover |
破壊株・過剰発現株セットを用いて、PmgAによるSsr1600のリン酸化が細胞内で実際に起きているかどうか検証する解析を予定していたが、pmgA破壊株ではSsr1600が蓄積しない、pmgA過剰発現株の取得が遅れた等の理由により、昨年度中に実施することができなかった。これまでの解析結果をまとめて論文投稿を行ったところ、PmgAによるSsr1600のリン酸化を示す解析が、in vitroのリン酸化アッセイだけでは不十分であるというコメントとともに却下された。そのため今年度中に、異なる光条件下で培養した変異株セットの細胞粗抽出液を二次元電気泳動に供し、Ssr1600のリン酸化状態を検出して、論文を再投稿予定であり、これが次年度使用額が生じた理由である。
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Research Products
(5 results)