2019 Fiscal Year Research-status Report
植物ウレイド研究の新展開:アラントインのストレスシグナリング作用と分子機構の解明
Project/Area Number |
19K06725
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂本 敦 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (60270477)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ストレス応答 / 遺伝子発現 / アブシシン酸 / ジャスモン酸 / プリン代謝 / ウレイド / 小胞体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,植物において長らく窒素栄養の貯蔵や輸送を担うとされてきたウレイド化合物アラントインに最近見出されたストレス応答の活性化作用について,その実態と分子メカニズムを解明にすることである。具体的にはシロイヌナズナを対象として,(1)アラントインによって活性化される標的遺伝子の精密同定,(2)分子構造と生理作用の相関および因果関係,さらに(3)作用を媒介する因子の同定などを目指している。今年度は以下の研究を実施した。 (1)アラントイン分解酵素を標的とした誘導的RNA干渉系の導入により,ストレス非依存的にアラントインの蓄積を任意に誘導できる形質転換シロイヌナズナを用い,アラントインに応答する遺伝子群の同定を進めた。 (2)アラントインは光学活性を示すため,立体構造と生理活性の関係を明らかにすることを目的に各光学異性体に対する既知の標的遺伝子の発現応答を調査した。しかし,その過程で植物体への処理時間内に異性体のラセミ化が生じていることが示唆された(これに対する対策は「今後の研究の推進方策」に記載)。他方,アラントインによるストレス応答の活性化メカニズムとして,その蓄積が小胞体の動態変化を誘起し,ストレスに応答したアブシシン酸生成経路の一つであり,小胞体に局在するグルコース配糖体加水分解経路を活性化することを明らかにした(Han et al., 2020)。 (3)アラントインの作用を介在すると考えられる因子の同定を目的に,ストレス応答を指標としてアラントインに応答しない突然変異体の選抜に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究において,アラントインの作用に関して遺伝子レベルから細胞レベルの知見が得られており,年度内に予定していた実験にも着手できた。特筆すべきことに,アラントインの作用において重要なアブシシン酸生成の活性化メカニズムに関する成果を取り纏めて公表した原著論文は,掲載国際雑誌の巻頭においてエキサイティングな研究成果として取り上げられ,4ページにわたり解説された。これらの研究成果は今後の研究の展開に重要な情報と示唆を与えるものであることから,研究計画は概ね順調に進行しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)については発現解析をさらに進め,より精度の高い標的遺伝子同定を行う。(2)におけるラセミ化の懸念については,アラントインの処理時間を短縮するとともに,アラントインに応答した迅速な小胞体の動態変化(Han et al., 2020)を指標とした観察を並行して行うことで,光学活性と生理作用の関係を解明する。(3)については変異株の選抜を進めるとともに,親和性カラムクロマトグラフィーとプロテオミクスの手法を用い,アラントインと相互作用する因子の同定を試みる。
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Causes of Carryover |
(理由)年度後半に予定していた確認実験の一部が植物の生育不良のため実施不可能となり,その実験に関連する試薬購入費や委託実験費に相当する未使用額が生じた。 (使用計画)未使用額は,実施できなかった確認実験を行うための試薬の購入経費に充てる。
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