2020 Fiscal Year Research-status Report
種子発芽のフェノロジーを決める温度反応制御遺伝子の同定
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19K06729
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
川上 直人 明治大学, 農学部, 専任教授 (10211179)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井内 聖 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任研究員 (90312256)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 種子 / 発芽 / 温度 / フェノロジー / 自然変異 / 量的遺伝子座 / QTL解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
一年生草本が生育する季節は種子発芽と花芽形成に依存するが、発芽の季節を決める分子機構は不明である。本研究ではシロイヌナズナ種内の自然変異に着目し、夏型と冬型で対照的な種子発芽の温度反応性をもたらす分子機構を解明することを目的とする。 夏型の種子は低温で発芽が抑制され、高温で発芽するが、冬型の種子は低温で発芽しやすく、高温で発芽が抑制される。2019年度において、夏型と冬型の温度反応性を示す系統の交配(組み合わせA)で得られたF2の解析から、高温発芽を支配する主要な遺伝子座が5番染色体下腕と2番染色体下腕に検出された。2020年度では、これら主要遺伝子座のマップベースクローニングを目的に、高温発芽を示すF2個体に冬型系統を戻し交雑し、いずれかの染色体のみが夏型系統由来の染色体領域を持つBIL(Backcross inbread lines)を作成した。 組み合わせAで得られたF2では、低温での発芽を支配する遺伝子のマッピングに十分な表現型の差(分離)が得られなかったため、より明確な差が期待される組み合わせBでマッピング集団を作成し、低温発芽性の分離を確認した。また、Aと同様、高温と低温の発芽形質はそれぞれ異なる遺伝子座に支配され、いずれも複数の遺伝子が関わることが示された。これらの量的遺伝子座を高感度に検出するため、単粒系統法による組換え自殖系統の作成を進め、AではF5世代の98系統、BではF4世代の178系統を得た。 高い高温発芽性を示すLer系統のごく近縁に、夏型の発芽形質を示す系統を確認しており、Lerは夏型の発芽をもたらす自然変異を持つ可能性が考えられた。そこで、Lerと冬型のCviの交配から作成された92の準同質遺伝子系統をストックセンターから入手し、人工気象室で3反復、野外の網室で1反復の生育を行い、高温発芽遺伝子座の同定に向けたQTL解析に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症への対応として実験室に在室する人数が制限されたことにより、全体の進捗がやや遅れている。 QTL解析に用いる分離集団を作成した交配組み合わせAでは、高温条件の発芽については十分解析可能であったが、低温条件の発芽は両親間の差がやや小さく、F2世代では明確な表現型の分離が得られず、マッピングが困難と判断した。このため、低温発芽性が大きく異なる両親の組み合わせBでマッピング集団を作成した。これにより、低温条件の発芽形質を支配するQTLについても、少なくとも主要遺伝子座については、F2世代の解析から可能になったと判断している。 QTL解析に用いるマッピング集団、AとBの夏型系統は同一クレードに属しているため、高温側の発芽形質についてはAとBで同一の遺伝子座がマップされる可能性が高い。一方、夏型の発芽形質を示す系統は遺伝的に大きく離れたクレードからも見出されており、夏型の系統分化には異なる遺伝子座が働いた可能性が考えられる。シロイヌナズナを材料とした分子遺伝学的研究において世界的によく利用されているLer系統は、これまで解析した400系統の中で最も高温で発芽する系統の一つである。また、Lerと同一クレードの近縁系統は夏型の発芽形質を示しており、Lerも夏型系統由来の高温発芽遺伝子を持つと期待された。全染色体に渡り、LerをバックグラウンドとしてCvi由来の染色体の一部を持つ準同質遺伝子系統を用いることにより、系統作成にかかる年月を省き、高温発芽の異なる自然変異を効率的に見出すことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
<組換え自殖系統(RIL)を用いたQTL解析>組換え自殖系統を2021年度中に確立することを目指し、自殖を継続して行う。交配組み合わせAでは高温条件、組み合わせBでは高温と低温の両条件の発芽を支配するQTL解析を行う。 <高温条件の発芽を支配する遺伝子のQTL解析およびファインマッピング>組み合わせA:QTLが検出された5番染色体下腕、および2番染色体下腕のみが夏型系統由来のBIL系統に冬型系統を交配し、F2集団を作成するとともに、遺伝子座のファインマッピングを実施する。組み合わせB:F2の分離集団を用い、ラフマッピングを行う。Aと同じ染色体領域に高温発芽の遺伝子座が見出された場合、その後の解析はAのみを用いて実施する。Ler/Cvi準同質遺伝子系統:2020年度に得られた4集団の種子を用い、高温発芽のQTLを全染色体から検出する。また、主要なQTLが見出された場合は、Cvi(冬型)の発芽を示した系統にLerを交配してマッピング集団(F2)を作成し、ファインマッピングによる遺伝子座の同定を目指す。 <低温条件の発芽を支配する遺伝子の同定>交配組み合わせBのF2集団を用い、主要なQTL遺伝子座の検出を試みる。主要遺伝子座が検出された場合には、冬型系統を交配してBIL系統を作成し、ファインマッピングを試みる。主要遺伝子座が見出されなかった場合は、組換え自殖系統を用いたQTL解析のみを実施する。 <夏型と冬型種子における遺伝子発現の解析>温度による発芽制御における夏型と冬型の特異性と共通性を明らかにするため、植物ホルモン関連遺伝子の発現に対する吸水温度の影響を、リアルタイムPCR法により比較解析する。
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Causes of Carryover |
2019年度からの繰越に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対応により、QTL解析および遺伝子発現解析が予定よりもやや遅れている。2021年度においてはファインマッピング、QTL解析、遺伝子発現解析を実施する。
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