2020 Fiscal Year Research-status Report
Study of functional evolution of steroid hormone receptor protein
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19K06734
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
勝 義直 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00332180)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
漆谷 博志 会津大学短期大学部, 食物栄養学科, 准教授 (30571301)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ステロイドホルモン / 鉱質コルチコイド受容体 / 分子進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「ステロイドホルモン受容体タンパク質の機能進化の解明」を目的として実施されています。ステロイドホルモン受容体は、核内受容体遺伝子スーパーファミリーに属しているホルモン依存的な転写制御因子です。そして、2つのグループである「性ステロイドホルモン受容体」と「副腎ステロイドホルモン受容体」に大別することができます。このうち「副腎ステロイドホルモン受容体」は、ヒトでは代謝・電解質制御・免疫など広範囲の生理作用に関与していることが分かっています。それでは、ヒトが持つステロイドホルモン受容体は生物進化においてどの生物の段階から出現したのでしょうか。また、ヒトで認められる受容体の生理的機能はどの生物でも同じなのでしょうか。このようなステロイドホルモン受容体それ自身と受容体が有する生理機能の成立に関わる根本的な問いかけの答えは今もって得られていません。以上のことを踏まえて、脊椎動物の進化の指標となる生物からのステロイドホルモン受容体遺伝子の単離と受容体タンパク質の機能解析を行い、「ステロイドホルモン受容体タンパク質の機能進化の解明」を目指しています。
本年度は、脊椎動物の進化の指標動物であるハイギョから「副腎ステロイドホルモン受容体遺伝子」の単離を試み、高等脊椎動物で認められる副腎ステロイドホルモン受容体である鉱質コルチコイド受容体のcDNAの単離に成功しました。さらに様々なステロイドに対する応答を調べました。その結果、ハイギョの鉱質コルチコイド受容体は、副腎ステロイドだけではなく黄体ホルモンであるプロゲステロンにも強く応答することが判明しました。この結果は、鉱質コルチコイド受容体の分子進化と適応に関するこれまで知られていない重要な知見を提供するものです。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究助成の2年目であり、1年目に引き続き遺伝子の単離と機能解析に取り組みました。その結果、これまで存在が確認されていなかったハイギョから鉱質コルチコイド受容体(MR)の単離に世界で初めて成功しました。さらにホルモンとの応答性を詳細に調べ、ヒトの受容体との比較をしています。興味深いことに、ヒトのMRは黄体ホルモンであるプロゲステロンによって活性化されませんが、ハイギョのMRは副腎ステロイドに反応するとともにプロゲステロンにより活性化されることを見出しました。この成果は、「MRの本来のリガンドはプロゲステロンである」という私たちが提唱している仮説を支持するものです。それとともに、これまで未解明だったハイギョのMRの解析はステロイドホルモン受容体の分子進化の解明に非常に重要な知見をもたらします。なぜならば、ヒトで合成され機能しているMRのリガンドはアルドステロンというステロイドホルモンであり、脊椎動物の進化においてハイギョの進化段階で初めてアルドステロンの生合成が行われるようになったからです。今回単離に成功したハイギョのMRの解析はアルドステロンによって制御される高等脊椎動物の恒常性維持機構の成立の理解につながる大きな成果です。
以上の結果は、現在、論文投稿の準備を進めており発表されれば世界に大きなインパクトを残すことができると期待しています。これらのことから「おおむね順調に進展している」と評価しています。
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Strategy for Future Research Activity |
「ステロイドホルモン受容体タンパク質の機能進化」という研究課題を進めるにあたって、私たちの研究グループは、生物進化の指標となる生物からのステロイドホルモン受容体の遺伝子単離及び機能解析という方策を取ってきました。これまでの進捗状況や研究成果から、この方策は非常に有効であり、多くの知見を得られている、そして今後も得られ続けるであろうと期待しています。本年度の成果としてもっとも四肢動物に近い動物種であるハイギョから副腎ステロイド受容体の一つである鉱質コルチコイド受容体の単離することができました。さらに、ホルモンに対する詳細な応答を解析しました。また同時並行として、軟骨魚類のステロイドホルモン受容体のホルモン応答や、ステロイドホルモン受容体の種特異性についても解析を進めています。
今後は、単離した受容体を用いて機能解析を行う計画を立てています。 1. ホルモンに対する応答性を調べる他種との比較を行う、2. これまで使用報告がない鳥類の培養細胞をステロイドホルモン受容体のホルモン応答性の検出に応用し、種間の比較を行う、 3. アミノ酸変異導入やキメラ受容体の作成を行うことによりホルモン応答に重要な領域や部位の同定をおこなう。これらの実験を丁寧に掘り下げることで、「ステロイドホルモン受容体タンパク質の機能進化」の解明を進めていきます。さらに、私たちの研究グループはこれまでにハイギョの鉱質コルチコイド受容体を確認しましたが、もう一つの副腎ステロイド受容体である糖質コルチコイド受容体はその存在がわかっていません。この遺伝子の単離も目指すことで、さらに研究成果の進展が期待できると思います。
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Research Products
(5 results)