2019 Fiscal Year Research-status Report
細胞表面に突き出たアンテナ「一次繊毛」が制御する新たな摂食・情動機構の解明
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19K06739
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
斎藤 祐見子 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 教授 (00215568)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Gタンパク質共役型受容体 / 一次繊毛 / 摂食 / 情動 / シグナル解析 / 海馬 / ヒトiPS |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類のほぼすべての細胞は「一次繊毛」と呼ばれる不動の繊毛を1本持つ。これは基底小体から生じる微小管を骨格に持つ特異な細胞内小器官である。一次繊毛膜には限られた種類の膜受容体が高密度に局在する。そのため、一次繊毛は細胞外環境を鋭敏にキャッチし、細胞内に情報を伝えるシグナルハブと考えられている。摂食亢進ペプチドであるメラニン凝集ホルモン(MCH)の受容体MCHR1はGPCRであり、海馬や線条体などの神経細胞一次繊毛に集積することが示されている。申請者は、繊毛にMCHR1を発現させたモデル細胞(RPE1細胞、NIH3T3細胞)を用いることで、MCHは繊毛長短縮を起こすという新しい現象を見出した。さらにGi/o-Aktが縮退開始シグナルであることも明らかにした。本研究では、神経細胞の一次繊毛局在型GPCRによる情報伝達機構とその生理的意義を解明するため、細胞レベルと個体レベルでの解析を並行して行う。本年度は繊毛長縮退を引き起こす責任分子を同定するとともに、vivoにおける繊毛局在型MCHR1の動態解析、さらに他の繊毛局在型GPCRについての予備的研究も行った。主な成果は以下の3点である:① RNAseqと改良型CRISPR/Cas9による高効率なゲノム編集を併用してMCHによる繊毛縮退に関する責任分子を同定した。② MCH-MCHR1を介する繊毛縮退現象は高発現系のモデル細胞に限った現象ではない。MCHR1が内在性に発現する3つのシステム(ヒトiPS由来興奮性神経細胞、ラット海馬スライスCA1領域の神経細胞、分散型ラット海馬神経細胞)においても生じ、ラット神経細胞についてはRPE1細胞同様、Gi/o-Aktが関与する。③ マウスに対し、絶食負荷やストレス負荷を行ったところ、特定の脳領域におけるMCHR1陽性一次繊毛の動態が有意に変化する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MCHR1を一次繊毛に高発現させたモデル細胞だけではなく、神経科学の研究推進に必須の神経細胞培養系(一次繊毛にMCHR1が内在性に集積)を複数確立した。さらに、生理機能の変動に伴いvivo神経細胞一次繊毛の動態が大きく変動することも見出した。このほかにも今後の研究に貢献する独自の実験系を立ち上げつつある。 [1] 一次繊毛縮退に伴う微細構造変化:一次繊毛は一細胞に一本しかないため、電顕下において探しだすことが非常に難しい。しかし、電顕専門家の協力のもと、MCH添加による繊毛縮退時の様子を透過型電顕にて観察しつつある。[2] 一次繊毛縮退による細胞構成分子の生化学的変化:リン脂質変動(プロファイリング)という観点から質量分析の専門家との共同研究が進行中である。[3] 一次繊毛と神経変性疾患の病態モデル:アルツハイマーモデルマウスの海馬神経細胞一次繊毛に着目した検討を行っている。 [成果のアウトプット] ヒトiPS由来興奮性神経細胞を用いた成果を基とした特許出願及び国内優先出願を行い、原著論文も発表した。海馬神経細胞の繊毛局在型MCHR1の繊毛縮退能(vitro, vivo)についての論文(英文校正済)はまもなく(5月中旬)投稿する。この後、MCHによる繊毛長縮退の責任分子に関する論文を執筆し、夏には投稿を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
「局在位置選択的なMCHR1シグナル」として、海馬神経細胞に局在するMCH-MCHR1システムを見出した。上述した[一次繊毛縮退に伴う微細構造変化] [一次繊毛縮退による細胞構成分子の生化学的変化] [一次繊毛と神経変性疾患の病態モデル]研究をさらに発展させつつ、合わせて下記の課題も推進したい。① 繊毛短縮は神経細胞の形態や機能に影響を及ぼすか、その変化は一次繊毛短縮が直接の原因かどうかを経時的に調べる。一次繊毛からの細胞形態変化を仲介する分子については、細胞骨格修飾剤やグルタミン酸受容体のサブタイプ特異的拮抗薬を用いた解析を行う。神経マーカーとして、ニューロフィラメント、MAP2、GAP43、シナプシン、GluR1やPSD95など定評あるものを用いる。② 慢性ストレス負荷により繊毛保有率、繊毛長、発現箇所に着目した詳しい解析を続行する。ストレスから解除後のリカバリーについても検討する。③ MCHR1以外にも中枢神経一次繊毛に局在すると報告されているGPCRを3種類選び、モデル細胞を立ち上げた。この中には、リガンド添加により繊毛動態が顕著に検出できる系もあるため、生化学、薬理学、細胞生物学、分子生物学的解析による変動機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年度に実施予定の実験費用を概算したところ、配分額をかなり超えることが予測された。そのため、次年度使用分として 701,590 円を2020年度交付額との合算使用としたい。 使用計画:各種抗体、分子生物学キット類、実験動物、英文校正費用
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] Dynamic changes in ultrastructure of the primary cilium in migrating neuroblasts in the postnatal brain2019
Author(s)
Matsumoto M, Sawada M, Garcia-Gonzalez D, Herranz-Perez V, Ogino T, Huy Bang Nguyen, Truc Quynh Thai, Narita K, Kumamoto N, Ugawa S, Saito Y, Takeda S, Kaneko N, Khodosevich K, Monyer H, Garcia-Verdugo JM, Ohno N, Sawamoto K
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Journal Title
J Neuroscience
Volume: 39
Pages: 9967-9988
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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