2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞表面に突き出たアンテナ「一次繊毛」が制御する新たな摂食・情動機構の解明
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19K06739
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
斎藤 祐見子 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 教授 (00215568)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Gタンパク質共役型受容体 / 一次繊毛 / 海馬 / 摂食 / RNAseq / アクチン結合タンパク質 / 情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
一次繊毛とは血球系以外のほぼすべての細胞が1本持ち、培養細胞では細胞周期の休止期G0/G1に形成される細胞小器官である。これは基底小体を起点とした微小管から成る軸糸を骨格とする「細胞外へ突き出した」小さな構造体(直径250 nm, 長さ1-10 μm)だが、細胞質から隔離するような脂質膜がないという、他の細胞小器官には見られない際立った特徴を持つ。一次繊毛膜と細胞膜のリン脂質の種類は異なる上、繊毛膜上には細胞膜と比べると限られた種類の膜受容体が高密度に局在する。そのため、一次繊毛は細胞外シグナルを鋭敏にキャッチし、その情報を増幅し、細胞内に伝える一種の“シグナルハブ”と考えることができる。中枢性摂食亢進ペプチドであるメラニン凝集ホルモン(MCH)の受容体MCHR1はGPCRに属し、海馬や線条体などの神経細胞一次繊毛に集積することが示されている。申請者は、繊毛にMCHR1を発現させたモデル細胞RPE1を用いることで、MCHは繊毛長短縮を起こすという新しい現象を見出し、Gi/o-Aktが縮退開始のメインシグナルであることを明らかにした。本研究では、神経細胞の一次繊毛局在型GPCRによる情報伝達機構とその生理的意義を解明するため、細胞レベルと個体レベルでの解析を並行して行う。今年度の主な成果は下記2点である。① MCHR1を介した一次繊毛縮退メカニズムの解析-シグナルネットワークの同定 ② アルツハイマー病 (AD)と一次繊毛長ダイナミクス-AD発症と1次繊毛伸長の関連性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
① 繊毛局在型受容体MCHR1を介した繊毛縮退の制御機構:RNAseq により、MCHにより誘導される536種のmRNAを得た。この中から、qRT-PCR, loss-of-function (siRNA+ 高効率なゲノム編集) , WB, 免疫組織化学により、繊毛縮退に関する責任分子XをRPE1細胞から同定した。続けて、Xと結合する下流分子Yを見出し、Yのloss-of-functionでもX同様、MCHR1を介した繊毛縮退能を大きく阻害することを明らかにした。X,Yともにこれまでの繊毛研究では知られていなかったタンパク質である。さらに、X-Yシグナルは神経細胞におけるMCHR1陽性繊毛縮退にも関与する結果を得た。② 一次繊毛と神経変性疾患の病態モデル:アルツハイマー病 (AD) モデルマウスと海馬培養神経細胞の両方を活用することで、AD発症と1次繊毛伸長の関連性を見出した。そのほか、一次繊毛縮退による細胞構成分子の生化学的変化についても検討し、リン脂質および一次代謝物変動(プロファイリング)という観点から質量分析の研究も進んでいる。 [成果のアウトプット] 海馬神経細胞の繊毛局在型MCHR1の繊毛縮退能(vitro, vivo)についての論文は受理されている。MCHによる繊毛長縮退の責任分子に関する論文は現在リバイス中であり、6月上旬には再投稿を予定している。AD-一次繊毛論文は執筆中であり、8月中には投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、MCHによる一次繊毛縮退は「繊毛局在型MCHR1-Gi/o-Akt/JNK---X-Y」であることが明らかとなった。この研究の過程で、GPCRごとに繊毛調節系が特化している可能性を見出した。そこで、最後の一年はこの選択的経路を同定するとともに、その生理的意義を探ることを目標とする。MCHR1以外の一次繊毛局在型GPCRモデル系(摂食関連も含む)を複数立ち上げているが、この中にはリガンド添加により繊毛動態が顕著に検出できる系もある。そこで、MCHR1の場合と同様、RNAseqを利用して、その繊毛調節機構を明らかにする。同時に当該GPCRによる免疫組織染色法も確立したため、ストレス負荷やエネルギー代謝変動に伴う一次繊毛のダイナミクスについても検討中である。
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Causes of Carryover |
理由:① コロナインシデントにより、学生たちが研究室に来ることができない日が続き、2020年度に予定していた実験頻度が減少した。その結果、2020年度分の予算使用が減少した。② 2021年度に実施予定の実験費用を概算したところ、配分額をかなり超えることが予測された。そこで、次年度使用分として 1,078,527 円を2021年度交付額との合算使用としたい。
使用計画:各種siRNA、各種抗体、実験動物、英文校正費用、オープンアクセス費用
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Patterns of cilia gene dysregulations in major psychiatric disorders.2021
Author(s)
Alhassen W, Siwei Chen S, Vawter M, Kay Robbins B, Nguyen H, Nyi Myint NT, Saito Y, Schulmann A, Nauli SM, Civelli O, Baldi P, Alachkar A
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Journal Title
Progress in Neuropsychopharmacology & Biological Psychiatry.
Volume: 109
Pages: 110255
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Required research activities to overcome addiction problems in Japan.2021
Author(s)
Ikeda K, Ide S, Omoe H, Minami M, Miyata H, Kawato M, Okamoto H, Kikuchi T, Saito Y, Shirao T, Sekino Y, Murai T, Matsumoto T, Iseki M, Nishitani Y, Sumitani M, Takahashi H, Yamawaki S, Isa T, Kamio Y
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Journal Title
Taiwanese J Psychiat
Volume: 35
Pages: 6-11
Peer Reviewed
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