2021 Fiscal Year Research-status Report
昆虫交尾器で探る、左右非対称な構造と「利き手」の進化の関係
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19K06746
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
上村 佳孝 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (50366952)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ハサミムシ類 / 交尾器進化 / メカニクス / 左右性 / 種間変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度から調査・解析を継続していたヒメハサミムシ属の研究については、2021年度中に論文にまとめ、誌上発表することができた。ヒメハサミムシNala lividipesのオスが、左右いずれか一方だけのペニスを使い続ける傾向(=個体レベルでの「利き」)を報告したこの論文は、Smithsonian Magazineでも紹介され、反響が大きかった。 「オスの利き手現象の進化」の一因として、対応するメス側構造との共進化が重要だと考えられる。これに関するコンピューターシミュレーションモデルを構築し、解析結果を誌上で発表した。同モデルでは、交尾の際にメスが直接的な利益(具体的には、オスからの精液による栄養分の供給)を得ることを想定しており、オスによる栄養分供給(婚姻贈呈)と、メスの側での移精を制限するような構造が共進化することが観察された。婚姻贈呈はハサミムシ類ではこれまで報告されていない。しかし、精液(精子)を一度に渡すことが困難な、細管状の精子貯蔵器官(受精嚢:メスの形質)と、それに直接挿入される「さらに細い」挿入器(オスの形質)の組み合わせは、ハサミムシ類でも広く観察されるものであり、メスが交尾によって得られる利益が、遺伝的なものに限定されている場合でも、婚姻贈呈が存在する場合と同様の共進化動態が駆動される可能性がある。(野外採集調査、とくに海外遠征の実施が難しい状況が今後も継続する可能性に備えるためにも)ハサミムシ類の状況により特化した状況にも対応すべく、更なるモデルの発展を計画している。 また、本研究の過程で、インドの研究者からのオファーを受け、同国のハサミムシ類の交尾器形態の進化に関しても共同研究が開始された。左右性の進化研究に適した種の選定をおこなうため、インド南部のハサミムシ類のスクリーニング調査が実施され、その中で発見された1未記載種を新種として記載し、論文発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していたマレーシア(ボルネオ島)でのコウモリヤドリハサミムシ類の調査は、Covid-19感染症の世界的な蔓延が終息せず、本年度も実現できなかった。 従来得られていた標本を用いた研究や、日本国内のサンプルを用いた実験、およびコンピューターシミュレーションを用いた研究については、成果に記載した通り、かなりの進展が得られ、アウトプットにつながった。また、直接に海外を訪問することは依然難しいものの、画像データや塩基配列データなどのやりとりを通じて、インドやエジプトの研究者との新しい共同研究が展開されつつあり、全体としては概ね順調に進展しているものと捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
依然として海外調査に出向くことができるようになるタイミングは不透明なため、これまで研究が不十分だった国内分布種の調査に注力しながら、海外調査再開に備えている。昨年度、ミジンハサミムシや、南西諸島産の亜熱帯棲カザリハサミムシ科各種のサンプルを集めることができた。これまで研究がほとんどなされていないこれらについて、飼育個体群に基づく研究を進めつつ、クロハサミムシやクロツヤハサミムシなど、いまだ実験個体群の確立に至っていない各種の採集を試みる。 ハサミムシ類の進化を論じるには、正確な種同定や、種間の系統関係の推定が不可欠だが、2021年度の後半より、DNAバーコーディングに関する調査がかなり進展した。特にマルムネハサミムシ科の各種の解析には、有効なツールであることがわかってきた。2022年度はこの方面の研究をさらに進め、上述の理論研究ともども、論文の出版を目指す。 また、不確実性を見越して、今回の研究テーマは5年間の長期プランで申請している。2022年度中に海外調査が再開できることに期待したいが、状況次第では2023年度以降に順延することとなる。
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Causes of Carryover |
Covid-19のパンデミックが続いていることにより、予定していた海外調査が行えなかったことから、2021年度の消化率は低くなった。これらの状況が改善次第、申請時の予定通りに消化することを目指している。現在、複数本の論文を並行して執筆中であり、2022年度の前半には、英文校閲や出版に関わる費用が多く発生し、消化率の増加が見込まれている。また、パンデミックの状況が改善しなかった場合に備え、DNAバーコーディング等の分子生物学的手法を用いた研究の充実も計画している。
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Research Products
(8 results)