2020 Fiscal Year Research-status Report
胚のキラル対称性を破る細胞表層の力学ロジックとその分子機構の解明
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19K06750
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
西川 正俊 法政大学, 生命科学部, 准教授 (30444516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞表層 / 体軸形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの生物種の発生過程において,左右軸は最後に決定される体軸でありこれによって個体のキラリティが決定する.本研究課題は線虫の胚発生におけるキラリティ決定機構に着目し,左右軸形成原理の理解を目指す.線虫胚は2細胞期にAB細胞の分裂軸が回転して背腹軸が確立し,続く4細胞期に娘細胞であるABa, ABp細胞の分裂軸が回転する.これによって細胞配置に左右非対称性が生じ,これをきっかけとして左右軸が確立する.このような分裂軸の回転は,AB細胞系列では一般的に観察される現象であり,分裂溝近傍で細胞表層がねじれることで駆動されることを示すことが報告されている.本年度は細胞質分裂のときに生じる表層のねじれと分裂軸の回転に着目して研究を行った.まず,左右軸がランダム化する遺伝子gpa-16のノックダウン胚において分裂溝近傍の表層を観察したところ,表層のねじれが生じておらず先行研究と整合性を示す結果を得た.そしてこれらの胚では分裂軸がランダムな方向に回転することがわかった.しかしこれらのノックダウン胚において2細胞期におけるAB細胞の分裂軸回転に異常は見られなかった.これはAB細胞の分裂軸回転は表層のねじれだけで説明されるものではなく,他の要因が関与していることを示している.この点については,アクチン重合因子であるフォーミン(cyk-1)のノックダウン胚において分裂軸回転と表層のねじれの関係からも確認した.表層のねじれにはアクチン重合因子であるcyk-1が必要であることが指摘されているが,AB細胞の分裂軸回転に異常は見られなかった.これにより,分裂時回転と表層の作用について,背腹軸形成と左右軸形成では異なる関係があることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分裂軸の回転と表層のキラルな作用についていくつか大きな進展が報告されていることを踏まえて,表層のねじれと分裂軸の回転を調べたところ,4細胞期に生じるABa, ABp細胞の分裂軸回転の方向がランダム化することがわかった.また,2細胞期におけるAB細胞の分裂軸回転に異常は見られなかった.これは,表層のキラルな作用は細胞の再配置には必要ではないが,胚の中で正しい配置をとるのに重要な役割を果たすことを示している.この研究の進展を持って,研究は概ね順調に進んでいると言ってよい.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかになった分裂軸回転方向がランダム化する条件で分裂軸回転の動態を精密に調べ,力学モデルとの比較を行う.野生型の細胞運動から構成したモデルでノックダウン胚の運動の予測を試みる.また,分裂軸回転方向がランダム化するノックダウン胚の細胞運動から構成したモデルで野生型の細胞運動を予測できるか調べることで,表層のキラルな作用が分裂軸回転に果たす役割を明らかにすることを目指す.
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍に関わる制約で実験にかける時間が当初の計画よりも短くなったが,外国の研究者との会話が容易になって情報交換が出来たおかげで,実験の効率も上がった.また,データ解析に多くの時間を割くことが出来たことも,実験の効率化に貢献した.その結果,実験消耗品購入のための費用などが予定より節約できた.最終年度は力学モデルとの精密な比較が可能となるように,実験データの高精度化も計りつつ,計測を行うための消耗品購入に充てる.
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