2019 Fiscal Year Research-status Report
脂肪組織での熱産生と代謝調節におけるKATPチャネルの役割
Project/Area Number |
19K06757
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
李 恩瑛 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60583424)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三木 隆司 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50302568)
波多野 亮 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60521713)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 肥満 / 熱産生 / エネルギー代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は以前、代謝センサー分子であるKATPチャネルの欠損マウス(KO マウス)では脂肪組織の糖取り込みが亢進することを見出した。さらに米国の研究者により、KO マウスが高脂肪食負荷時に肥満抵抗性を示すことも報告された。これらの結果から、KATPチャネルが脂肪組織での代謝を調節し、全身エネルギー代謝や糖代謝に影響を与える可能性を考え、KOマウスの脂肪組織代謝の解析を進めている。予備実験の結果から、KOマウスは4℃の寒冷刺激に対して明らかな不耐性を示したものの、8℃では生存可能であり、褐色脂肪組織でのUCP1の発現が誘導された。そこで令和元年度には、この寒冷応答の機序を解析した。その結果、軽度な寒冷環境と考えられる15℃の飼育環境に数日間馴化させただけで、KOマウスに野生型と同程度の寒冷耐性が誘導されることを発見した。その際、褐色脂肪組織特異的分子マーカーとされている UCP1発現が、皮下脂肪組織にも野生型マウスと同等に誘導されることを見いだした。しかしながら、交感神経刺激により制御される遺伝子Xの発現上昇はKOマウスでは完全に消失していた。そこで令和元年度には、褐色脂肪細胞を用いた遺伝子Xのin vitro発現誘導メカニズムを解析するため、褐色脂肪前駆細胞を単離し、成熟褐色脂肪細胞へ分化させる実験系を確立した。また近年、寒冷刺激による体温維持には褐色脂肪での非震え熱産生に加え、筋肉での非震え熱産生が寄与することが明らかにされた。そこで、我々は、筋肉での遺伝子X発現がKATPチャネルにより制御されている可能性を考え、骨格筋の筋芽細胞を単離/初代培養し、筋管細胞への分化を誘導する実験系も確立した。現在、これらの実験系を用いて野生型マウスとKO マウスから調整した筋管細胞を用いて、褐色脂肪細胞や筋肉細胞でのKATPチャネルの役割を細胞レベルで解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はKATPチャネルの脂肪細胞や筋細胞の代謝調節への役割を細胞レベルで検討する目的で、マウスから調整した初代培養細胞を脂肪細胞や筋細胞まで分化させ、in vitroで分子レベルの解析を可能とする実験系を樹立した。特に、脂肪前駆細胞から成熟褐色脂肪への分化にも成功し、分化とともに褐色脂肪組織に特異的に発現する褐色マーカーが明らかに発現誘導されることも確認した。また、筋芽細胞から筋管細胞への分化に伴い、分化筋管細胞マーカーであるMyoDなどの発現誘導も確認された。これらの実験系を用いてイソプロテレノールで刺激し、遺伝子Xをはじめとする寒冷刺激で誘導される遺伝子群の発現をqPCRで解析し、KATPチャネルの寄与を検討するための実験系が確立された。また、これと並行して脳特異的KOマウスの解析も進めており、各臓器におけるKATPチャネルの役割の解明に着手したところである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度以降も、本申請で提案した計画通り、熱産生調節におけるKATP チャネルの役割の解析を行う予定である。特に、新たに脳特異的KOマウスの表現型の解析を行い、どの組織に発現するKATP チャネルが寒冷応答に寄与しているかを検討する。 さらに、令和2年度には脂肪組織のみならず筋肉でのKATPチャネルの寄与にも焦点を当てて実験を行う予定である。これまでは寒冷刺激による褐色脂肪組織や白色脂肪組織での遺伝子発現プロファイルに焦点を当てて検討していたが、筋肉での非震え熱産生も寒冷刺激による体温維持に非常に重要であること、さらに褐色脂肪組織で寒冷刺激による発現上昇に異常が見られた遺伝子Xが筋肉での熱産生に非常に重要な役割を果たしていることが報告されたことから、今後は全身KOマウスと脳特異的KOマウスを比較しながら、中枢、脂肪組織そして筋肉での臓器間ネットワークを調べる。一方、KOマウスは通常食・通常飼育温度下では体脂肪量の差は見られなかった。にもかかわらず、通常飼育温度下でも脂肪酸合成酵素あるいは脂肪酸不飽和化酵素の発現が低下していた。このことから、KOマウスの寒冷刺激時のこれらの遺伝子発現制御の障害がKOマウスの寒冷不耐症に寄与している可能性も示唆される。そこで、これらの遺伝子発現誘導の違いがマウス個体のエネルギー代謝にどう影響を与えるかを明らかにするため、食餌のタイプや飼育環境温度を変化させ、エネルギー代謝や糖代謝への影響を検討する計画である。特に、30℃での飼育では褐色脂肪組織での温度感受性熱産生の低下が見られることから、通常飼育温度(25℃)では見られる褐色脂肪組織でのUCP1活性が抑制され、脂肪酸合成酵素あるいは脂肪酸不飽和化酵素を介した熱産生が見やすくなる可能性もある。そこで、30℃での飼育環境を利用してこれらの寄与を詳細に実験する予定である。
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Causes of Carryover |
当初、令和元年度にリピドミクスの解析を行う予定であったが、KATPチャネルの分子レベルでの寄与を検討する目的でin vitro実験系の樹立を先行して行った。これらの解析を先に進め、脂質代謝関連の遺伝子発現の変化とその誘導機構を解析したのち、個体レベルのリピドミクスの解析を行った方がより効率よく重要な情報を得られると考えた。このことを受け、両者の解析の順番を検討し直し、令和2年度以降に行うこととした。その結果、令和元年度の予算の一部を次年度に使用することとなった。 具体的には、KOマウスと野生型マウスを種々の条件下で飼育し、リピドミクスの解析を行う予定である。
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