2019 Fiscal Year Research-status Report
動物の環境応答行動を制御する光センシング機構とその個体成長での転換
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19K06758
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小島 大輔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (60376530)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光受容 / ゼブラフィッシュ / 体色変化 / 網膜 / オプシン / 転写因子 / 松果体 / メラトニン |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の環境応答行動の光制御メカニズムと、その個体成長過程における転換様式を明らかにするため、真骨魚類ゼブラフィッシュを動物モデルとして次のように研究を進めた。 ◎動物の光環境応答の一つ「背地適応」の光制御には、少なくとも2種類の光受容分子P416とP470が関与し、前者は網膜の視細胞、後者は視細胞以外の網膜ニューロンに存在する。これらの光受容細胞群がどのような神経回路を形成するかを調べるため、経シナプストレーサーや蛍光タンパク質による標識実験を行った。その結果、P416が発現する視細胞群とP470発現細胞とが直接神経接続することが示唆された。 ◎背地適応は5日齢幼生や成体において観察されるが、2日齢幼生はこれとは異なり、光依存的な黒色化を示す。このような幼生型体色変化を制御する光受容分子の波長特性を推定するため、2日齢幼生において420~580nmの単一波長の刺激光に対する体色変化の感度を測定した。その結果得られた光作用スペクトルは、成体型のものとは大きく異なることがわかった。 ◎松果体はメラトニンを分泌する脳器官である。多くの動物では松果体が外部環境の明るさを直接感知し、睡眠や体色変化など様々な生理機能を制御する。本研究では松果体の進化的・発生学的な特長に着目し、松果体特異的な発現を示す遺伝子群を探索した。その結果、松果体において特異的な遺伝子発現を制御する、ホメオボックス型転写因子Bsxを同定した。個体レベルでBsxの機能を解析したところ、Bsxは松果体ニューロンの発生・分化に必須であることがわかった。松果体はメラトニン分泌という種を越えて保存された機能をもつが、Bsxはこのような松果体の機能発現に重要な役割をもつと考えられる。この成果は国際学術誌(Mano et al. 2019 Commun. Biol.)に報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は以下の4つの研究項目からなる:(1) 背地適応を制御する光受容分子の同定、(2) 背地適応を制御するオプシン発現細胞の同定と光応答性の検証、(3) 背地適応を制御する光受容システムの神経回路、(4) 幼生型体色変化を光制御する光受容分子の同定。研究実績の概要に記載したように、本年度はこのうち主として (3) および (4) の2項目において大きな進展があった。さらに、本研究課題全般に関連した進化学的・発生学的観点からの研究として、体色変化の光制御にも関与する光感受性の脳器官(松果体)において遺伝子発現制御に必須の転写因子を同定し、この成果を国際学術誌(Mano et al. 2019 Commun. Biol.)に報告した。一方、背地適応を制御するP470発現細胞の光応答性の検証を共同研究として行う予定であったが、年度末に始まったCoViD-19流行の影響により計画を中断し、次年度に延期することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き計画にしたがって研究を進める。とくに、本年度に実施する予定であった研究項目(P470発現細胞の光応答性の検証)については、共同研究先と再開時期を検討したうえで実施する予定である。また、本年度に決定した幼生型体色変化の光作用スペクトルから、光受容分子の候補遺伝子群を絞りこんでいる。いくつかの候補遺伝子についてはすでに変異系統を入手しているので、これらの系統を用いて幼生型体色変化を光制御するかどうかを検証する。
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Causes of Carryover |
「背地適応を制御するP470発現細胞の光応答性の検証」を共同研究として行う予定であったが、年度末のCoViD-19流行の影響により計画を中断し、次年度に延期することになった。次年度使用額は、この研究項目の遂行にあてる。具体的には、変異動物を用いた機能解析の消耗品費、および共同研究を行うための出張費用(旅費)として使用する。
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