2019 Fiscal Year Research-status Report
メラトニン代謝産物AMKによる加齢性記憶障害改善の神経分子機構の解明
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19K06759
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
松本 幸久 東京医科歯科大学, 教養部, 助教 (60451613)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メラトニン / AMK / 加齢性記憶障害 / 長期記憶 / フタホシコオロギ / 糖代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の先行研究から、メラトニン代謝産物のAMKがコオロギの長期記憶形成に重要な働きをしていることがわかっている。しかしAMKがシナプス伝達の制御因子に直接作用するのか、それとも糖代謝を調節して細胞内のエネルギー状態を制御することで間接的に神経細胞の活性を変化させているのかはわかっていない。 そこで本実験ではまず、細胞内への糖の取り込みがコオロギの長期記憶形成に関与するのかどうかを調べた。哺乳類において細胞内へのグルコース取り込みを阻害する2デオキシグルコース(2DG)をコオロギに投与し、投与20分後に嗅覚報酬条件付けを行ったところ、訓練1日後の長期記憶が完全に阻害された。一方で2DGを投与したコオロギの訓練1時間後の短期記憶は正常であったため、コオロギにおいて糖の取り込みが嗅覚学習の長期記憶の形成に重要であることが分かった。また、2DGの投与を訓練5分後に行ったところ、訓練前の投与と同様に長期記憶の形成を阻害した。この結果から長期記憶形成にかかわる糖代謝は、訓練中ではなく訓練後に起きていることが示唆された。 次に、コオロギの脳で実際に糖の取り込みが起きているかどうかを組織培養した脳を使って調べた。2DGはグルコースと同様にグルコーストランスポーターを介して細胞内に取り込まれ、比較的安定な2DG-6リン酸(2DG-6P)となる。そこで、コオロギから単離した脳を30分間組織培養し、培地に2DGを投与した後に取り出してホモジェナイズし、高速液体クロマトグラフ質量分析器(LC-MS)で2DG-6P量を測定した。2DGの投与濃度を8μg/ml~200μg/ml、2DG暴露時間を2分~30分に変えて測定したところ、2DGの投与濃度と暴露時間依存的に2DG-6P量が上昇し、コオロギの脳が糖を取り込んでいることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は研究実施計画の実験②「長期記憶形成におけるAMKが修飾する神経機構」における、糖代謝を介した長期記憶形成について調べた。行動薬理実験により、嗅覚学習訓練後の脳への糖の取り込みが長期記憶形成に重要であることがわかった。一方で、短期記憶の形成には糖の取り込みが関与しなかった。昆虫の長期記憶に糖の取り込みが関与していることは初めての知見である。さらにコオロギの脳の組織培養系を確立することができた。この方法の確立によりLC-MSによる定量実験の結果が安定し、そしてコオロギの脳がグルコースの取り込みを行っていることを実証できた。以上のことから、本年度の達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究2年目において、まずは研究実施計画の実験②「長期記憶形成におけるAMKが修飾する神経機構」の続きを行う。具体的には、長期記憶に関わる糖代謝にメラトニン及びAMKが関与しているかどうかを「脳の組織培養実験」と「行動薬理実験」で検証する。「脳の組織培養実験」では、培養したコオロギ脳の培地に2DGとメラトニン(またはAMK)の共投与を行い、数十分後の脳内の2DG量をLC-MSで定量し、糖の取り込みがメラトニンやAMKの影響を受けるかどうかを調べる。一方「行動薬理実験」では、1回の訓練後に2DGとメラトニン(またはAMK)の共投与を行い、1日後の長期記憶が形成されるかどうかを調べる。さらにインスリンシグナル系などの長期記憶形成にかかわる他のシグナル伝達系とメラトニン/AMK系との関係を、それぞれの阻害剤や促進剤を使った共投与実験により調べる。そして研究実施計画の実験①「長期記憶形成におけるAMKの分泌制御機構の解明」を遂行する。具体的にはコオロギの頭部を脳、食道化神経節、脂肪体、食道、筋肉などに分け、それぞれのメラトニン量、AMK量をLCMSで定量し、さらにメラトニン代謝酵素IDOの酵素活性も調べ、AMKがどの部位で作られているのかを特定する。
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Causes of Carryover |
当初は初年度に「糖代謝に関する行動薬理実験」および「LCMSによるAMKの定量解析実験」を行う予定であったが、「行動薬理実験」で予想以上に興味深い結果が出たため、初年度は主に「行動薬理実験」に時間を割いた。その結果、「LCMSによるAMKの定量解析実験」を次年度に遂行することにし、「AMK定量解析実験」に必要な物品、薬品に使用する予定の金額(約23万円)を次年度に使用することにした。
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Research Products
(1 results)