2021 Fiscal Year Research-status Report
メラトニン代謝産物AMKによる加齢性記憶障害改善の神経分子機構の解明
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19K06759
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
松本 幸久 東京医科歯科大学, 教養部, 助教 (60451613)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メラトニン / AMK / 長期記憶 / フタホシコオロギ / インスリンシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的の一つは、コオロギの長期記憶形成機構におけるメラトニン代謝産物AMKの役割の解明である。昨年度の成果からAMKによる長期記憶の誘導作用は糖代謝を介さない機構によるものであると結論した。そこでメラトニン/AMKシグナルは長期記憶形成に重要なシグナル伝達系(NO-cGMP系など)に関わることで長期記憶を誘導していると考えた。 まず、脊椎動物の学習・記憶において重要な働きが知られているインスリン受容体シグナルとNMDA型グルタミン酸受容体(NMDA型GluR)シグナルがコオロギの学習・記憶に関与するかを行動薬理で詳しく調べた。一般的に、インスリン受容体シグナルにはPI3K系を活性する経路とRas-MAPK系を活性する経路の2つの経路があることが知られている。本研究では、インスリン系ではPI3Kの阻害剤(wortmannin)を、NMDA型GluR系ではNMDA型GluRの拮抗剤(MK-801)と作動剤(NMDA)用いた。成虫脱皮1週齢のコオロギの頭部にwortmanninおよびMK-801を4回の学習訓練前に投与すると、いずれも短期記憶は正常だが、長期記憶が完全に阻害された。またNMDAを1回の学習訓練前に投与すると長期記憶が誘導でき、コオロギの長期記憶の形成にはインスリン系とNMDA型GluR系が関与することが示唆された。さらにNO-cGMP系、インスリン系、NMDA型GluR系、メラトニン/AMK系との関係を調べるために各シグナル系の阻害剤と促進剤の共投与実験を行った。その結果、長期記憶の形成機構においてNMDA系はNO-cGMP系の上流で働き、メラトニン/AMK系はインスリン系の下流で働いていることが示唆された。 他に、コオロギの脳において、ウェスタンブロッティングによるリン酸化CREB発現量の測定系、酸化ストレスマーカーのマロンジアルデヒドの測定系を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究実施計画の実験②「長期記憶形成におけるAMKが修飾する神経機構」において、薬理行動学手法を用いることで、コオロギの長期記憶形成において新たなシグナル伝達系(NMDA型GluR系など)を同定し、それらとメラトニン/AMK系や既知のシグナル伝達系(NO-cGMP系)との関係性を推測できた。さらに、リン酸化CREB発現量の測定系と酸化ストレスマーカーの測定系を確立した。これらの手法の確立により、脳の生理状態を老齢コオロギと若齢コオロギとで比較することや、AMKによる加齢性記憶障害の改善の脳内メカニズムの解析が期待できる。以上のことから、本年度の達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究4年目において、研究実施計画の実験①「長期記憶形成におけるAMKの分泌制御機構の解明」を遂行する。コオロギの頭部を脳、食道下神経節、脂肪体、食道、筋肉などに分け、それぞれのメラトニン量、AMK量をLC-MSで定量する。さらにそれぞれの部位でメラトニン代謝酵素IDOの酵素活性も調べ、AMKがどの部位で作られているのかを特定する。そして実験②「長期記憶形成におけるAMKが修飾する神経機構」において、NO-cGMP系、cAMP系、NMDA系、インスリン系の阻害剤や活性剤を投与し、脳内のAMKが増減するかをLC-MSにより測定する。また、老齢コオロギと若齢コオロギの間で、脳内のリン酸化CREB量、酸化ストレス量を測定・比較し、さらにAMKを投与した老齢コオロギでもそれらを測定し、脳の老化に対するAMKの効果を調べる。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた状況)当初、本年度に「行動薬理実験」だけでなく「LC-MSによる定量解析実験」も行う予定であったが、研究室のLC-MSが故障し定量解析実験を遂行することができなかったため「行動薬理実験」を中心に研究を行った。よって「LCMSによる定量解析実験」を次年度に遂行することにし、LC-MSの測定に使用する予定の金額(約17万円)を次年度に計上することにした。 (使用計画)「LC-MSによる定量解析実験」に必要な物品(逆走カラム、チューブ、バイアル瓶など)や薬品を購入する予定である。
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Research Products
(4 results)