2020 Fiscal Year Research-status Report
情動性の条件付けと運動性の条件付けは小脳回路を共有するか
Project/Area Number |
19K06767
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 将之 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (70253119)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | プルキンエ細胞 / 無条件刺激 / 登上線維 / 脳局所破壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究における計画のうち、<計画1>の、無条件刺激が下オリーブ核から登上線維経由で小脳プルキンエ細胞に入力するかどうかの確認において、2019年度からの継続である電気生理学的手法を用いた検証については、安定的に単一のプルキンエ細胞からのEPSPを記録することが技術的に難易度が高く、また「現在までの進捗状況」にも記載したように、この実験に適した被験体の確保が困難であった。このため、学習実験と脳局所破壊とを組み合わせた検討を行った。その結果、小脳に上行する登上線維束を破壊すると、学習が阻害されることがわかった。さらに、身体の右側あるいは左側に与えられた侵害刺激は、両側性に小脳皮質に運ばれることが明かとなった。<計画2>の、下オリーブ核破壊の影響検証の試みは、哺乳類において下オリーブ核ニューロン特異的な障害誘発の有効性が報告されている3ーアセチルピリジンの投与が効果を示さないことが明かとなった。そこで、<計画3>の、平行線維経由の条件刺激と、登上線維経由の無条件刺激とがプルキンエ細胞に収束することの確認を先行して実施した。その結果、光刺激によりプルキンエ細胞のシンプルスパイクの頻度が変化することを確認するとともに、体表への電気ショックから短い潜時でコンプレックススパイクが発生する場合があることを確かめた。しかしながら、両者が同一ニューロンで観察される例数が少なく、確証には至っていない。 「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」にもあるように、2020年度後半においては、非不動化条件で恐怖指標を得る方策を検討した。その結果、自由遊泳中の魚から継続的に呼吸運動を計測することに成功し、現在この手法を洗練化している。呼吸運動は、心拍同様自律神経の支配下にあるため、恐怖レベルを含む情動性の指標として有効であることが先行研究より分っているため、本研究課題の展開に有効である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初、計画2 で予定していた、薬物による下オリーブ核ニューロンの選択的破壊が不調に終わり、無条件刺激入力経路の解明に支障を来たした。これは、哺乳類で有効性が確認されている薬物でも、魚類には無効であることの一例であり、ある程度止むを得ないと考える。また、Covid19感染症拡大を原因とする入構制限等により、本研究を遂行するために適切な質を有する実験動物(キンギョ) の確保が困難となり、夏以降は当初計画どおりの遂行ができなかった。さらに同理由により、2020年度における実験動物の採卵、育成の状況が極めて不良であるため、2021年度使用予定の動物が十分に確保できていない。情動性の学習実験と微細な電気生理学実験を組合せた実験を含む研究であるため、養魚業者から購入した成体では再現性の高い実験が見込めず、計画の大幅な変更を要する可能性がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、情動性の条件付けと運動性の条件付けの神経回路を比較するため、電気生理学的な手法に依存した計画が主である。特に、単一ニューロンレベルでの実験を安定的に行うため、実験動物を不動化・拘束する必要がある。このような状況では、実験動物のストレスレベルが高く、それに順応し得る動物の確保が必須である。そのため、実験動物のキンギョは、研究室にて採卵・育成し、馴致度の高い個体を確保する必要があった。しかしながら、上記「現在までの進捗状況」のとおり、2021年度は良質な実験動物が十分に確保できない見込である。 そこで、動物の不動化・拘束を伴わない実験条件を開発し、これを適用することで本研究の目的を達成する。呼吸運動は、心拍同様恐怖の条件付けの指標になることは既にわかっている。このような背景から、2020年度後半より、キンギョと同じくコイ科のゼブラフィッシュを対象として、自由遊泳中の魚の呼吸を長時間記録する手法の開発に取り組み、既に部分的に成功している。まずはこの手法を確立する。そして、情動性の条件付けに加え、これと同時に運動性の条件付けを行う方策を検討する。実験動物としては、キンギョの代替として、コイ科のゼブラフィッシュを用いる可能性もある。これが、当初予定の<計画4>に対応することになる。そして、主に脳局所破壊や、精神作用のある薬物を用いた行動薬理学的手法をつかって、<計画3>の修正版を遂行し、本研究の課題である、情動性の条件付けと運動性の条件付けの小脳ネットワークの使い分けの解明を推進する。
|
Causes of Carryover |
Covid19感染症拡大を原因とする入構制限等により、本研究を遂行するために適切な質を有する実験動物(キンギョ) の確保が困難となり、夏以降は当初計画どおりの遂行ができなかったことが理由である。このため、特に電気生理学関連の消耗品等の購入がなされなかったことが大きく影響している。これに加え、同理由により、2020年度における実験動物の採卵、育成が出来ず、動物飼育関連の支出が予定よりも大幅に抑えられた。2021年度は、修正した研究計画の推進のため、自由遊泳中の魚からの生理指標取得に係る装置作成とデータ解析に関連した支出が予定されている。これをカバーするために、翌年度分として請求した助成金を使用する。
|
Research Products
(3 results)
-
-
-
[Book] Death-Feigning in Insects2021
Author(s)
Sakai, M., Pfluter, HJ., Honma, A., Miyatake, T., Nakano, R., Takahashi, T., Nishono, H., Buschges , A., Namiki, S., Yoshida, M.
Total Pages
181
Publisher
Springer
ISBN
978-981-336-598-8