2019 Fiscal Year Research-status Report
新規アンチセンスRNAにコードされる翻訳産物の同定と生物学的役割の解明
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19K06776
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Research Institution | Suntory Foundation for Life Sciences |
Principal Investigator |
酒井 翼 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所・統合生体分子機能研究部, 研究員 (40414122)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | RNA / antisense / ascidian / gonad / follicles |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) Ci-ctshとCi-chuarpの組織発現解析について: 尾索動物ホヤの酸性プロテアーゼ・カテプシンH 遺伝子の3’非翻訳領域 (Ci-ctsh 3’UTR) のアンチセンス (as) RNAであるCi-chuarp の発現について、本年度は卵巣以外の組織、神経複合体、内柱、えらかごや腸といった組織でもRT-PCRによって解析し、ホヤ生体においてCi-chuarpが広く発現することを見出した。一方、翻訳産物Ci-CHUARPを特異的に認識するアフィニティー精製抗体を用いた免疫組織化学(IHC)では、卵巣における解析結果とは異なり、神経複合体や内柱においてはCi-CHUARPの産生が低い可能性が示された。
(2) 翻訳産物Ci-CHUARPの同定について: ホヤの各組織に比べて夾雑物の少ない神経複合体(NC)をCi-CHUARP精製に用いれば、効率の良い同定を望めるが、上述の通りIHC解析はNCにおけるCi-CHURAP産生が低い可能性を示したことから、今期はCi-CHUARP精製用に約500匹分ホヤ組織のサンプリングを、神経複合体だけではなく卵黄形成期卵胞においても行った。そして、抗体カラムを用いた高効率Ci-CHUARP精製達成のため、Ci-CHUARPの新たな抗原部位に対する抗体を作製し、強いシグナルを免疫組織化学的に示す抗体を作製することに成功し、Ci-CHUARP同定と発現解析に向けて重要な基盤を築くことが出来た。
(3) Ci-chuarp破壊ホヤの作製について:Ci-chuarpのゲノム編集をTALENのみならず CRISPRも用いたゲノム編集に着手し、カタユウレイボヤにおけるCi-chuarpノックアウトの効果を予備実験で観察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ci-chuarp RNA発現を神経複合体、内柱といった卵巣以外の組織でもRT-PCRによって確認し、ホヤ生体で広くCi-chuarpが発現することを見出した。夾雑物の少ない神経複合体(NC)をCi-CHUARP精製に用いれば効率良い同定を望めるが、免疫組織化学法(IHC)では、卵巣とは異なり、神経複合体や内柱において翻訳産物Ci-CHURAPの産生が低い可能性が示された。そのため、NCにおけるCi-CHURAPの低い産生可能性から、精製用の約500匹分組織サンプリングを神経複合体だけではなく、卵黄形成期卵胞においても行い、両組織でのCi-CHUARP精製を遂行しながら、最終的には精製度の高い方でMS/MS解析によりアミノ酸同定を行う準備を整えることが出来た意義は大きい。更に、抗体カラムを用いた高効率Ci-CHUARP単離達成のため、新たな抗原部位に対する抗体を作製し、強いシグナルを免疫組織化学的に示す抗体を作製することに成功し、Ci-CHUARP同定と発現解析に重要な基盤を獲得した。 今期は組織サンプリングと抗体作製に要する時間を有効利用し、Ci-chuarpのゲノム編集を筑波大学笹倉先生の指導の下実施した。TALENのみならず CRISPRも用いたゲノム編集に着手し、Ci-chuarpノックアウトによるカタユウレイボヤへの影響を予備実験で観察することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、カタユウレイボヤの卵黄形成期卵胞もしくは神経複合体からCi-CHUARPを精製し、LC-MS/MS 解析でCi-CHUARP の同定を行う。その際、精製やMS 解析の条件を最適化するための標準物質として、ペプチド合成機によるCi-CHUARP合成、 または翻訳後修飾の可能性を考えて哺乳類培養細胞もしくは昆虫培養細胞を用いてCi-CHUARPを発現させ、合成Ci-CHUARPを得る。そして、RT-PCR法では実証が困難となっている、Ci-ctsh とCi-chuarpのRNA発現様態を明らかにするため、RNAscopeを用いた定量的in situ hybridization解析を行う。また、Ci-chuarp の転写・翻訳調節等を明らかにするために、ホヤ組織 RNA からCi-chuarp RNAの全長塩基配列をRACE 法で決定する。 また、免疫電顕法によってCi-CHUARP の細胞内の局在や膜上の配向を明らかにし、生理機能推定に必要な知見を得る。そして、合成Ci-CHUARP を結合したビーズを用いて、プルダウン法で各組織から相互作用する分子を同定後、当該分子の組織における転写・翻訳の発現解析結果と統合し、Ci-CHUARPの生理機能を解明する。 更に、ゲノム編集により Ci-chuap 及び Ci-ctsh を破壊したホヤ、また、恒常性発現遺伝子のプロモーターに Ci-chuarp の翻訳領域をつないだトランスジェニックホヤを作製する。表現型の比較、 RNA seq による遺伝子発現解析で ホヤ生体における Ci-chuarp の作用を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年2-3月にかけて実施を計画していた実験が、コロナウィルス対策による在宅勤務によって実行出来なくなり、99,643円の次年度使用額が生じた。次年度は、この計画していた実験を行うため、実験試薬等を購入する。
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