2019 Fiscal Year Research-status Report
X線による昆虫飛翔筋内の蛋白分子運動の実空間イメージング
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19K06777
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
岩本 裕之 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 特別嘱託研究職員 (60176568)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | X線回折 / シンクロトロン放射光 / 昆虫飛翔筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫飛翔筋を含む繊維状試料にX線を照射して記録されるX線繊維回折像から、試料の3次元構造を復元する方法についての研究を進めた。X線回折像は、数学的にいうと試料の構造(電子密度分布)のフーリエ変換であり、これをもう一度フーリエ変換すると(逆フーリエ変換という)、試料の構造が高分解能で復元される。これは実際、光学顕微鏡や電子顕微鏡の原理である。このフーリエ変換は振幅と位相という2種の情報を含んでおり、試料の高分解能構造を復元するには両方が必要となるが、X線回折実験では回折像が検出器に記録される際に位相情報が失われてしまうため、構造復元のためには一旦失われた位相情報を回復する必要がある。位相回復法として現在最も広く用いられている方法はCoherent Diffractive Imaging (CDI)と呼ばれる方法であるので、まずこの方法を繊維状試料に適用できないかを検討した。CDIはまず回折像にランダムな位相を設定し、誤差が少なくなるように逆フーリエ変換・フーリエ変換を多数繰り返すことで位相を回復する方法である。しかし、試験を繰り返すうちにCDIは繊維状試料にはあまり適さないことが判明した。この理由は、CDIが連続的な散乱強度を必要とするのに対し、繊維状試料では内部の繰り返し構造のために回折像がどうしても離散的(不連続)になるためである。そこで、全く別の方法を試すことにした。これは、パターソン関数と呼ばれるものを利用することである。回折像の位相をすべて0として逆フーリエ変換を行って得られるのがパターソン関数である。これは試料の構造の自己相関関数であり、試料内の任意の2点を結ぶベクトルをすべて原点から生じるように並べたものである。これを利用すると、理想的な回折像であれば試料の構造が復元できることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
位相回復法として広く用いられているCDI法は繊維状試料に余り適さないことが分かったが、まったく新規なパターソン関数法が有望であることが判明したのは大きな進歩である。
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Strategy for Future Research Activity |
繊維状試料の構造復元法としてパターソン関数法が有望であることが判明したが、構造復元ができるのは現在のところは欠陥のない理想的な回折像に限られている。実際の回折像は種々の欠陥を含んでいるので、そのような回折像であっても構造復元ができるように方法を改良することが令和2年度以降の課題である。
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Causes of Carryover |
2019年度の主な出費はノートPCの購入費、海外の共同研究者への試料の輸送費、国際学会参加費であるが、後2者は額に不確定な要素が大きかったため、次年度使用額が生じた。2020年度は論文を出版予定であるが、高額のオープンアクセス費が発生する可能性があるため、その経費に充当する。
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Research Products
(8 results)