2020 Fiscal Year Research-status Report
X線による昆虫飛翔筋内の蛋白分子運動の実空間イメージング
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19K06777
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
岩本 裕之 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 客員研究員 (60176568)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | X線回折 / シンクロトロン放射光 / 昆虫飛翔筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
試料のX線回折像は、その電子密度分布のフーリエ変換(構造因子)を2乗したものである。従ってX線回折像の平方根をもう一度フーリエ変換すれば、元の試料の電子密度が高拡大率で復元できるはずであり、これが光学顕微鏡・電子顕微鏡の原理でもある。しかし構造因子は振幅と位相をもった複素数で、X線回折実験では回折像が検出器に記録される際に位相情報が失われてしまう。位相情報なしには正しく試料の電子密度を復元するのは困難である。さらに、筋肉のような繊維状試料では、回折像が試料の長軸の周りに回転平均化されてしまうので、電子密度の復元が一層困難である。 2020年度は、このような回転平均化された回折像から、位相を復元して繊維状試料の回転平均化されない電子密度を復元する方法を研究し、それが可能であることを示した。これは昨年度末に開発を開始したパターソン関数法を発展させたものである。例として、F-アクチンの非整数らせん(1回転に含まれるモノマーの数が整数でないようならせん)、またDNAの2重らせんのような複雑な構造をもつらせんであっても、回転平均化されない構造の復元がであることを示した。また、この方法を利用し、アクチン繊維を除去したマルハナバチ飛翔筋線維の回折像から、ミオシン繊維の4重らせん構造を復元した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナの蔓延により、研究の継続に支障があった時期があり、また学会での発表は現在も困難であるが、本年度を通して言えば、開発中だったパターソン関数法により、繊維状試料の回転平均化された回折像から、試料の回転平均化されない3次元構造を復元する方法の開発に成功し、その成果はこの報告書の作成時点でインプレスになっている。以上から、困難にかかわらず、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
パターソン関数法、またはそれをさらに発展させた方法により、実際に作動しているマルハナバチ飛翔筋線維から記録した高時間分解X線回折像から回転平均化されない収縮装置の3次元構造と、その動きを復元することを試みる。
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Causes of Carryover |
国内外の学会に出席し、研究の成果を発表し、そのための参加費、旅費を支出する予定だったが、新型コロナの蔓延によりそれが不可能になったこと、また論文のオープンアクセス費用も見込んでいたが、論文の審査が大幅に遅延して出版が2021年度にずれ込んだこと、また緊急事態宣言の発令により一時期研究の遂行が不可能だったこと等により次年度使用額が生じた。 次年度は、国内学会はすでにオンライン開催が決まっているものもあるが、2022年2月に開催される米国の生物物理学会にはオンサイトで参加できるものと期待している。また次年度計画している時間分解3次元再構成の研究も進め、その成果の出版費用も見込んでいる。
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Research Products
(1 results)