2022 Fiscal Year Research-status Report
ヌタウナギにおける染色体放出ではDNA鎖内部領域欠失・再結合はおこなわれているか
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19K06783
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
久保田 宗一郎 東邦大学, 理学部, 教授 (30277347)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 友二 東邦大学, 理学部, 准教授 (70362522)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヌタウナギ / ゲノム再編成 / 染色体放出 / DNA鎖内部欠失 / NGSデータ / 染色体末端切除 / 染色体レベルゲノム配列構築 / Hi-C解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
科研費申請時には、検出されているID領域の大きさによる塩基配列のデータベースを構築した後、以下の3つの作業目標を設けた;1.大きさに分けた幾つかの配列について、その領域が本当にEゲノムに相当するのかをS・G両ゲノムを鋳型にしたPCRで検証し、またその領域の染色体上の位置をFISH解析で特定する、2.塩基配列を詳細に解析し、遺伝子等の分布や既知の転位因子との相同性等を解析する、3.個体によってID領域に差がないのかを上記1で確認し、必要なら関連領域のリシーケンシングをNGSによって行いデータの信憑性を検証する。初年度は、作業目標1に沿って、SゲノムにおいてEゲノムの上下流が再結合したと考えられるSゲノム由来scaffoldとそれに対応するGゲノムの配列をランダムに抽出し比較解析した結果、再結合の様式は概ね3通りに分類された。また再結合が確認された複数のGゲノム由来scaffold配列を基にEゲノムの上・下流を増幅するPCR解析の結果、G・S両ゲノムからも増幅されることがあり、ID領域に細胞間・個体間での違う可能性が示唆された。そこで作業目標3の複数個体での実施を行い、まずは同一個体由来のS・G両ゲノムそれぞれについて受託解析に依頼した。 2年目は研究が休眠状態の中、本研究課題について文科省科研費助成事業「先進ゲノム支援」へ申請・採択され、支援チームの助言に従い、前年度の受託解析データの情報解析をチームに依頼した。3年目は、新規に採集した個体組織から同一個体由来のS・G両ゲノムのLong-readでのゲノム再構築を最新のNGS解析機器にて行い、新たなドラフト・ゲノムの構築と、個体差確認用のデータも得ることとした。4年目の今年度は、支援チームによる最新NGS解析による新たなドラフト・ゲノムの構築の結果報告を受け、追加解析について協議を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度冒頭に行った予備的解析結果から、ID領域に細胞間、個体間での違いの存在が示唆され、更に同じ様な塩基配列を持つID領域がゲノム内に多コピー存在する可能性も併せて示唆されたため、先に作業目標3の複数個体のリシーケンスが研究遂行上極めて重要となった。そこで、まず1個体のS・G両ゲノムのリシーケンスを行った、一方研究・解析体制の充実のため、文科省科研費助成事業のひとつ「先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(先進ゲノム支援)」へ申請を行い、採択されたため、まずは前年度のリシーケンス・データの解析を支援チーム依頼した。また、2021年度には、新規抽出のS・G両ゲノムそれぞれのLong-readによるドラフト・ゲノム再構築を行い、リシーケンス・データも同様に新規抽出DNAから行うこととし、新規採集した個体組織から1個体分(血液、精巣)のLong-readデータ、2個体分のshort-readデータを取得、今年度10月に新たなドラフト・ゲノム再構築とEゲノム推定データを得た。 Long-read2個体から得たゲノムサイズは、Sゲノムはともに1.79Gbp、Gゲノムはそれぞれ、2.06Gbpと2.09Gbpとなり、Eゲノムは270~300Mbpと推定された。これらの値は当初NGSデータからの概算値とほぼ等しいが、アセンブリの精度は著しく向上した。また、Eゲノムの2/3(約200Mbp)は縦列型反復配列で占められるが残りの領域(約70Mbp)のうちの31Mbpは、2900(推定値)あまりの遺伝子配列と見積もられた。一方ID領域と末端切除が推定された領域は8800と400あまりとなり、当初の値6800を越えた推定値となったが、候補領域を精査すれば、領域数は1/10程度になる可能性が示唆された。そこで、新たにHi-Cによる解析を導入して染色体レベルでのゲノム配列の再構築を現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに導入したHi-Cによる解析によって、S・G両ゲノム1個体についての染色体レベルでのゲノム配列の再構築が完成し、その結果について2023年3月末に先進ゲノム支援チームから説明を受け、データは2023年の4月に入ってから受け取る予定である。この最新の解析結果によると、S・G両ゲノムともに、染色体レベルとしてのscaffoldが18本得られ、これはSゲノムについては全配列が染色体にマッピングできたことを意味している。またS・G両ゲノムの染色体レベルの18本のscaffold配列の比較から、末端切除も含んだID領域の数は100以下(この領域内にある遺伝子数は56)と見積もられたが、今後の詳細な解析によりその数は1/10程度になる見込みである。また、この極めて完成度の高いドラフト・ゲノムを用いたID領域の解析を今後の最優先課題と位置づけた。 最終年度である2023年度の残りの期間では、ID領域と推定された領域の塩基配列の精査により、ID領域内や上・下流の近傍に共通の塩基配列を有する領域の有無を確認する。また同様に詳細なFISH解析を行い、ID領域が、染色体放出によって体細胞から失われている16本の染色体上に座するものではなく、生殖細胞においては捨てられない36本の染色体上に存在するが、体細胞におけるこの36本の染色体上には座していないことを明らかにする。更に、末端切除が推定された領域については、切除領域の塩基配列とテロメア付加との関係を塩基配列レベルで詳細に解析する。得られたこれらのデータを基に、ヌタウナギの染色体放出における内部欠失型のゲノム再編成の実態や機序、意義などの解明に繋げていく予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナ・ウイルス蔓延に伴う入構規制等の影響で、研究活動に費やせる時間がほとんど無かったため、研究活動に大幅な遅れが生じた。そのため2020年度の実施予定の研究を2021年度に実施して、当初3年間としていた研究期間を1年間延長して4年間とした。当初3年目で使用するはずであったFISH解析の研究試薬を中心に、4年目にあたる2022年度に使用する予定であった。しかし、研究活動の大幅な遅れを取り戻せなかったため、究期間を再度1年間延長して5年間とし、5年目(最終年度)にあたる2023年度にFISH解析の研究試薬として未使用となっている基金を使用する予定である。
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