2019 Fiscal Year Research-status Report
チョウ目昆虫における翅形質の退行的な進化を制約する発生・分子機構の解明
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19K06791
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
新津 修平 首都大学東京, 理学研究科, 客員研究員 (70446524)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 貴史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 契約研究員 (20726707)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | チョウ目昆虫 / 翅の退化 / 性的二型 / 進化的制約 / 発生拘束 / 翅退縮 / プログラム細胞死 / アポトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
チョウ目内において多様な進化的起源を持つ翅の退化機構について、フユシャクの一種であるフチグロトゲエダシャクをモデル材料に、退化機構の背後にある進化的制約の実態を、形態・組織・遺伝子レベルで明らかにすることを究極的な目的としている。 【研究項目1】(組織形態学的、比較内分泌学的アプローチによる翅退縮要因の推定):蛹化15日後の休眠蛹に脱皮ホルモンを微量投与した休眠打破蛹の作成と実験系を確立した。次に、休眠打破蛹を用いて透過型電子顕微鏡観察により、雌雄間で蛹翅原基の翅膜上皮組織を観察することにより、翅退縮時に特異的に観察される細胞小器官の発現動態の解明に成功した。 【研究項目2】(並体結合による翅退縮の要因の推定):性特異的な翅退縮の体液的要因を推定する目的で、初年度は並体結合(パラビオーシス実験の確立に向けた予備実験を複数回にわたり行った。その結果、パラビオーシス実験に必要不可欠な生存要因と、実験の最適化に必要な方法を確立した。 【研究項目3】(組織培養系を用いた翅退縮を誘導する要因の推定):蛹翅の休眠打破と、翅発育の内分泌効果に必要な生理学的要因の探索が目的で、休眠中の蛹翅の初代組織培養の確立に向けた予備実験を行った。その結果、組織培養に必要な条件の絞り込みに成功し、次年度の実験に向けて必要な条件を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究項目1】透過型電子顕微鏡を用いた細胞小器官の発現について、これまでの研究では見出せなかった新たな特徴が観察された。特に蛹化15日後の休眠蛹に脱皮ホルモンを微量投与した休眠打破蛹において、初期の段階で性特異的な性差を細胞小器官レベルで認めることができたのは世界で初めての成果である。 【研究項目2】 並体結合実験(パラビオーシス実験)を用いて遺伝子発現を介さない実験系を確立したことは、これまでの既知の研究にはなかった手法として、発生生理学的な研究への進展が期待される。 【研究項目3】 組織培養系に必要な実験条件を満たす方法論を確立ができた。培養系のサンプルからの遺伝子発現解析に向けたサンプル調整の基盤が整えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究項目1】蛹化15日後の休眠蛹に脱皮ホルモンを微量投与した休眠打破蛹について、論文投稿に必要なサンプル数のデータの取得を進めていく。 【研究項目2】雌雄間の並体結合実験(パラビオーシス実験)について、実験後の生存率が高くないことから、更なる実験条件の向上と最適化を目指しつつ、再現性と精度の高い実験手段の確立を目指す。並体結合実験で得られたサンプルから、組織学的な解析、分子遺伝学的な発現解析に向けたサンプリングの調整と実験の確立を目指す。 【研究項目3】組織培養系から得られた組織固定サンプルにより、異なった培養条件下での組織学的、細胞生物学的な解析を進めていく。さらに、分子遺伝学的な発現解析に向けた組織培養サンプルの調整ができるように条件設定の確立を目指す。 【研究項目4】次世代シーケンサーを用いたRNA-seqによる網羅的な解析を進めていくにあたり、研究項目1での実験の延長線上として、RNA抽出に必要なサンプリングの実験条件の設定と確立を目指す。また、リアルタイム定量PCRを用いた雌雄間における蛹翅の発達過程で発現する遺伝子の比較解析も同時に進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度行われた実験計画の延長線上として、予備実験から本実験への着手を目的とし、以下のような実験を継続し、進めていく。 【実験1】(形態発生学的アプローチによる翅退縮要因の推定)。雌特異的な翅退縮時に特徴的に見られる細胞小器官と微細構造の変化を観察する。これにより、翅の退縮と形成を分ける発生・分化の時期を明らかにし、翅退縮要因の推定を進める。 【実験2】(実験発生学的アプローチによる翅退縮を誘導する要因の検証)。初代組織培養実験により、雌雄の翅原基の退縮・分化に生じる内分泌と細胞自律性の関係を調べる。 【実験3】(翅退縮関連遺伝子群の発現解析を通じた退縮要因の推定)。雌雄の翅原基の発育過程における時系列を追った翅原基の定量PCRによる遺伝子発現解析を行う。その結果から、メス特異的翅退縮に関連して最小に変化が生じる遺伝子群(誘導要因)とそれを受けて翅退縮を誘導させる遺伝子群(翅退縮要因)を明らかにする。
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Research Products
(2 results)