2020 Fiscal Year Research-status Report
シンカイヒバリガイ類で共生細菌が水平伝達される際、細胞では何が起きているのか?
Project/Area Number |
19K06799
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
生田 哲朗 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋生物環境影響研究センター), 研究員 (80584846)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 化学合成 / 共生細菌 / シンカイヒバリガイ / 水平感染 / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度はシンカイヒバリガイ類が共生細菌を環境から取り込む際の細胞プロセスや分子メカニズムの理解へ向け、以下の研究を行った。 1.シンカイヒバリガイ、ヘイトウシンカイヒバリガイの相互感染再実験の網羅的遺伝子発現解析:昨年度行った相互感染実験で得た試料を用いて予備的なRNAseq解析を行ったところ、再度相互感染実験を行なう必要があることが分かった。そこで本年度の調査航海において、若干の改善を加えた相互感染実験を行って新たに試料を作成した。この試料からRNAを抽出し、RNAseqの次世代シークエンス作業を外注委託した。 2.シチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験:本来硫黄酸化型共生細菌を宿すシチヨウシンカイヒバリガイで共生細菌のいない状況を水槽飼育によって作り出し、本研究の協力先である新江ノ島水族館の水槽中で共生細菌の再感染の実験を試みたが、qPCR解析では再感染の現象は確認できなかった。そこで陸上の水槽ではなく、生息現場での培養を用いた方法に切り替えたところ、再感染を示すと思われる結果が得られた。 3.シチヨウシンカイヒバリガイの鰓菌細胞内微細構造と共生菌亜集団構造の解析:昨年度に引き続き、シチヨウシンカイヒバリガイの鰓上皮菌細胞内の詳細な構造を電子顕微鏡で3次元的に観察した。さらに、鰓上皮菌細胞一細胞ごとに含まれる共生細菌の遺伝的多様性を解析した。その結果、極めてユニークな性質を持つことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.予備的RNAseq解析の結果から、再度相互感染実験を行なう必要があることが分かり、令和2年12月の調査航海で新たに採取したシンカイヒバリガイとシチヨウシンカイヒバリガイを用いて再実験を行なった。そこで得た試料を用いて外部委託したトランスクリプトーム解読の結果が得られたのが令和3年2月となり、現在結果の解析中であり、組織化学的解析に本格的に着手するには至っていない。 2.シチヨウシンカイヒバリガイでは、水槽での飼育では共生細菌の明確な再感染は困難であることが分かった。そこで陸上の水槽ではなく、生息現場での培養を用いた方法に切り替えたところ、qPCRにより再感染を示すと思われる結果が得られたが、現在結果の解析中であり、組織化学的解析に本格的に着手するには至っていない。 3.シチヨウシンカイヒバリガイ菌細胞の詳細な構造解析と、共生菌亜集団の構造解析によって明らかとなった非常にユニークな性質について結果をまとめて論文を投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.シンカイヒバリガイ、ヘイトウシンカイヒバリガイの相互感染実験:相互入れ替え再感染実験で得た試料を用いて、蛍光in situハイブリダイゼーション(ISH)等を行うことで共生細菌の感染の有無とその局在性を観察する。トランスクリプトームの差分から注目される遺伝子について、ISHおよび免疫組織化学法による発現局在解析を行うと共に、電子顕微鏡により共生菌を取り込む鰓細胞の微細構造の観察等を行う。 2.シチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験:生息現場での再感染実験で得た試料を用いて、まずPCRで再感染を確認すると共にqPCR法により亜集団を定量する。また蛍光ISH等による解析を行い、菌亜集団の宿主鰓上皮細胞内の局在性の推移を詳細に観察する。さらに、菌と宿主の細胞増殖に関連する遺伝子の発現局在解析を行い、菌の分布の経時的変化と細胞増殖との関連を検討する。
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Causes of Carryover |
生きた生物を使用した再実験が必要となり、生物採取の機会となった調査航海が令和2年12月であったため、2種のシンカイヒバリガイ類の相互入れ替え感染実験で得た試料を用いたトランスクリプトーム解析、およびシチヨウシンカイヒバリガイの再感染実験の結果を受けた分子生物学・組織化学的解析に用いる試薬消耗品類は次年度購入することとした。次年度、順次これらの試薬消耗品類を購入し、予定通りの解析を進める。
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