2020 Fiscal Year Research-status Report
北太平洋の魚類にみられる交雑帯の形成・維持機構の解明
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19K06808
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
甲斐 嘉晃 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (30379036)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 種間交雑 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型コロナウイルスの影響で採集などに出かけることがあまりできなかったものの,これまで得られたサンプルの分析を進めた.今年度研究対象としたのは,クサウオ科魚類とトクビレ科魚類である.クサウオ科魚類については,フウライクサウオ属魚類に隠蔽種を発見し,それらが側所的に分布していることを明らかにした.1種はオホーツク海からベーリング海に広く分布しており,もう1種はアラスカ湾から東太平洋に分布していることが明らかとなった.2種は外見上非常によく似ているものの,ミトコンドリアDNAの配列や背鰭軟条数・臀鰭軟条数に明確な違いが見らた.両者の分布が接するアリューシャン列島においてもこれらの形態的・遺伝的差異は明確であり,交雑の可能性は認められなかった.また,インキウオ属魚類について,日本の東北太平洋沖から房総半島にまで分布する種と房総半島以南に分布する種が極めて近縁であることが分かったが,両者についても房総付近半島を境にして明確な差異が認められ,今年度調査したクサウオ科魚類については,側所的に分布していても交雑は認められないという結果となった. 一方,トクビレ科魚類については,ヤギウオとヒゲナガヤギウオの交雑の可能性について調べた.両種はこれまで1種として考えられてきたが,ヒゲの長さや鱗の数などに形態的な差異が認められ2種として記載した.また,ミトコンドリアDNAではほぼ同じハプロタイプを共有しており,交雑の可能性が考えられた.そこで,さらに詳しく調べるため,次世代シーケンサーによるMIG-seq分析を行った.この結果,ヒゲや鱗の数で区別できる2種には遺伝的分化は認められず,日本海の深海の個体群がほかの個体群から遺伝的に分化しているという結果となった.個体数がまだ少ないため,2021年度に詳しい解析を進める必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウイルスの影響でフィールド採集などに行く機会は少なかったものの,オホーツク海や日本海などで最低限の採集は行うことができた.同時にこれまで得られたサンプルの分析を進めることで,ほぼ計画通りの研究を進めることができた.分析については,2020年度にクサウオ科魚類に完了させることができ,2019年度と併せてカジカ科のオキカジカ属魚類,ゲンゲ科,アジ科,アマダイ科などにおいて分析を完全に終了させた.トクビレ科魚類については,予定通り次世代シーケンサーによるMIG-seqを外注で行い,大量のデータを得ることができた.これにより,遺伝様式の異なるミトコンドリアDNAと核DNAのゲノムワイドな変異を検出することができ,より詳しい考察ができた.ただ,分析個体数が現在のところ少ないので,2021年度にデータを増やす必要がある.クサウオ科魚類についてはウェブ上における学会発表を行い,論文化も完了させることで,公表することができた.現在,オキカジカ属魚類の論文化を進めており,残りの分類群についても順次論文化を行っていく予定である.カジカ科のコオリカジカ属魚類については,標本採集が十分に進まずに2020年度には十分なデータは得られなかった.予備的なデータは既に得られているため,データをより強固にするためには,標本採集を進めて行く必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はカジカ科のコオリカジカ属魚類とトクビレ科のヤギウオ類について新たにデータをとり研究を進めていく.コオリカジカ属魚類については,まだサンプルが不足しているため,可能な限りオホーツク海へ出かけて採集を行う.新型コロナウイルスの影響で,出張に行くことが難しければ,現地の研究機関などに依頼する.ヤギウオ類については,追加サンプルはある程度揃ってきているが,東北沖のサンプルについては現地の研究機関などに採集を依頼済みである.夏を目処に採集を完了させ,ヤギウオ類に関しては次世代シーケンサーによるMIG-seqを外注してより強固なデータとする.コオリカジカ属魚類については,ミトコンドリアDNAの分析は済ませており,オホーツク海と日本海で交雑が起こっている可能性が極めて高い種について詳細な分析を進める. また,これまで分析が終了しているカジカ科のオキカジカ属魚類やアジ科,アマダイ科についての論文を急ぐと共に,すでに論文化の終了している分類群についての情報を整理し,どのような分類群がどのような場所で交雑を起こしているか(あるいは起こしていないか)と言うことを比較検討していく.特に,それぞれの生態的特徴(分布水深・産卵生態)の異なる複数の分類群における交雑帯を比較すると同時に,物理的環境(水深・海流など)の 異なる複数の海域における交雑帯を比較することで交雑帯の形成・維持機構を明らかにしていく予定である.
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Research Products
(4 results)