2020 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of host searching behavior related with nematode evolution
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19K06811
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
田中 龍聖 宮崎大学, 医学部, 助教 (70723550)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 線虫 / 宿主探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
宿主探索は、寄生虫などが宿主生物を見つける際に必要な行動であり、その生物の生活史を成り立たせるうえで非常に重要である。本研究は、単純な体構造を持ち扱いやすい線虫を用いてその宿主探索機構を明らかにし、宿主探索が進化に影響することを実験的に証明することを目的としている。具体的には、宿主探索の主要な要因となる、宿主の「匂い」と「振動」それぞれを線虫C. japonicaおよびC. elegansがどのように受容しているか明らかにし、進化学的観点から考察する。 ・宿主の匂い受容機構解明 2020年度は、前年度に引き続き宿主探索行動を示す線虫Caenorhabditis japonicaのリファレンスゲノムの向上を行い、リファレンスゲノムの更なる改善に成功した。また改善されたリファレンスゲノム情報を用いて、近縁種の線虫C. elegansと匂い物質を受容する受容体の比較を行い、C. japonicaが宿主の匂い物質を受容する受容体の絞り込みを行った。その結果、宿主探索に関与する可能性が高い受容体候補が得られた。 ・宿主由来振動の受容機構解明 2020年度は、宿主生物が発生させる振動について解析を行った。その結果、宿主生物(小型の節足動物)は、幅広い領域の振動を発生させており、この振動領域の中に、前年度までに本研究で明らかにした「線虫が受容できる振動領域」が含まれていることが明らかとなった。つまり、小型の節足動物が発している振動を線虫は感知できると考えられる。今後実際に宿主が発する振動に対して、線虫がどのような反応を示すか確認する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・宿主の匂い受容機構解明:宿主探索行動を示す線虫C. japonicaの宿主の匂いを受容する受容体を同定するため、近縁種の線虫C. elegansとの匂い受容体(GPCR)の比較解析を行った。その結果、C. japonicaの72グループのGPCR群のいずれかが、宿主の匂い物質を受容する可能性が高いことが示された。この進捗状況は当初予想していたよりもやや遅れている。新型コロナウイルス感染症の蔓延により、サンプリングになかなか行けず、実験に使用する宿主昆虫の確保が難しい状況であったためである。
・宿主由来振動の受容機構解明:宿主となる小型節足動物が発生させる振動についてレーザードップラ計測器で計測し、解析した。その結果、小型節足動物は移動時に、300Hzから3000Hzまで様々な波長の振動を発生させていた。前年度の実験より、C. elegansは、300-1500Hz域の振動に対して、反応を見せ、特に800-1000Hzの振動に対して敏感に反応することを示している。800-1000Hzの振動は、小型節足動物が発する振動域の一部である。つまり、C. elegansは少なくとも、小型節足動物が発する振動を感知できることが明らかとなった。上記の振動受容の成果についても当初の予定より遅れている。他の研究所にある振動計測機器を用いて実験していたため、実験機会が制限されたためである。 また、2020年度は、成果を発表する予定だった学会が開催されず、成果の学会発表ができなかった。2021年度も学会が開催されない可能性があるため、2021年度の成果の発表は主に論文にて行う。
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Strategy for Future Research Activity |
・宿主の匂い受容機構解明:前年度に得られた72グループのGPCRと、「宿主の匂いを認識している状態」と「宿主の匂いを認識していない状態」のC. japonicaのRNAseqのデータの解析を進め、宿主の匂いの認識に関与する受容体の絞り込みを行う。さらに、絞り込まれた候補受容体について、相同性検索およびRNAiでの機能解析により、宿主の匂いの認識に関わる受容体を同定する。得られる予定の「C. japonicaの宿主昆虫の匂いを受容するレセプター」のホモログが他の線虫や寄生虫に存在するか、リファレンスゲノムが利用できる種について調べる。結果を宿主昆虫がいる種、いない種で系統的に考察し、匂い受容レセプターが進化に寄与したことを示す。
・宿主由来振動の受容機構解明:C. japonicaの宿主探索を行う発育ステージとそれ以外ステージでどのような振動に対して反応するか調べ、これまでに明らかにしたC. elegansの振動への反応と比較する。また、計測された宿主の振動を振動発生装置で再現し、C. japonicaを晒し、どのような行動を示すか観察する。上記の匂いの研究と同様に、C. japonica以外の線虫およびその他の寄生虫のうち、実験に利用できるものについて、「振動への反応」と「宿主が発生させる振動」を調べ、比較解析する。その結果を系統樹と照らし合わせて、振動受容がその生物の生活史形成にどう影響したか考察する。 最後に宿主の「匂い」と「振動」の受容の知見を統合し、進化学的に考察する。 *2021年度も前年度と同様に、新型コロナウイルス感染症蔓延により、サンプリングや出張実験の機会が限られると考えられる。したがって、少ないサンプルや実験機会で効率よく進めていく必要がある。
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